今日の反省
「えー、あ、そう…」

耳に携帯を当てながら着替える。まあほぼ着替え終わってんだけど。

「てか迎え来てくんない訳?女の子一人で夜道歩かせるとか無いわー、今日めちゃくちゃ混んだのになー。……え?セタ兄来てくれんの!?マジでやったあー、うん、うん。じゃあ着いたら電話するよう言ってくんない?…ん、ありがとー、じゃまたあとでねー」

ぷつりと通話を切って椅子に腰掛ける。ふと差し出されたお茶に驚いて差し出した人物を見た。

「クーフーリンか?」
「ん、ありがとエミヤ。…そーそ、なんか飲み物買って来いってさ。アイツ今日シフト入ってないからこっちがどんだけ疲れたか知らないんだよ」

お茶を受け取り口に含む。いや今日は中々混んだな、と言う彼に賛同した。

わたし達がアルバイトしている場所はまあ有名なチェーン店だ。速さと安さが取り柄故に人が来る時は来て、そして尚且つ早く提供しなければならないという。更にぶっちゃけるとあんましよろしくないような会社が親だ(労働基準法的に)
まあ稼げればなんでも良いという人向けなバイト先です。そして稼げればなんでも良い人達が私たちです。

暫くはエミヤがここはああだったああすれば良かったと愚痴紛いなお説教をわたしに垂れていた。わたしはわたしでエミヤはこうだった、と互いに悪かったことを言い合って、ふと、思い出したように。


「それで、最近はどうだね」
「え?なにが?」
「君の弟のことだ」


あー、と頬を掻く。そういやエミヤに色々相談してたしなあ。

「うん、大分良くなったよ。可愛い後輩もディルちゃん守ってくれるし、エミヤの言う通りがつんと言ってやったりもする」

まあたまに実力行使になるけど、と呟くと彼は困ったように息を吐いた。

「甘やかすのも大概にしておけよ」
「分かってるけどさー、あのディルちゃんを見る女の子の目は異常だからね。わたしが見ても寒気する。異常だよ異常、あれはもう魔法の域」

あれは女性恐怖症になっても仕方がないと思う。かわいそうだもん。物盗まれたりとか、見ず知らずの人のもの入ってたりとか、とにかく酷い。だから私たちが守ってあげなきゃならないの。

「そこが君の良いところなのだがね」

エミヤはそう言って鞄を持つ。お疲れー、と声をかけると一度振り返って「相談ならいつでも聞いてやろう」と言い、片手を挙げて帰って行った。それと同時に携帯電話が震えたのでボタンを押して耳に当てる。

『着いたぞ』
「あいよ」

わたしも自分の鞄を持ち更衣室を適当に綺麗にしてから電気を消そうとした。しかし机の端にある黒いスマートフォンを見つけあ、と自然に声が漏れる。エミヤの奴携帯忘れて行きやがった。信じらんねえ。急いで外に出るとドンッとぶつかる。

「っ、」
「、!すまない!」

倒れそうになった所をぶつかったエミヤに助けられた。やべえびびった心臓飛び出るかとおもった。

「携帯、」
「ああ、忘れたことに気付いてな」

それを差し出すと受け取ってありがとう海南、と柔らかく笑った。



「おいおいお兄さんよぉ」


ぐい、とエミヤの体が仰け反る。そこには煙草を銜えたセタ兄さんが。

「オレの妹に手ぇ出してくれんなよ?」
「っ、!」
「セタ兄……、それ、わたしの友達だから」
「ん」

ぱっ、とエミヤの髪の毛を離しわりぃわりぃ、と悪気無く笑った。エミヤはいきなりのことに驚いていたが、すぐにはぁ、とため息を吐いた。


「お前がブラコンなら兄もシスコンか」
「いやあウチの兄弟もう終わってるからね、色々」
「はははっ、悪かったって、な?坊主。礼に送ってってやるよ」

わしゃわしゃとわたしとエミヤの頭を撫でてバイトお疲れさん、と何時もの顔で笑った。

「だって。良かったねエミヤ」
「……むぅ」

何やら不満気なエミヤの肩を押してセタ兄の車に乗り込んだのでした。


prev next

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -