気付かない
「「はあ?」」

二人の声が重なる。

「だから、そう決まったんだ」
「どうしてそうなったんだいエミヤ君」

ジト目で彼に近付くと彼も彼であんまり納得はいってなかったらしい。けれども適任らしい適任もおらず、居なかったわたしとクーが一番適任だと、そう、決定付いたということだ。

「待って、信じらんない」

はあと片手で顔を抑え溜め息を吐く。いやこれは溜め息以外出ないだろう普通に。


「わたしがジュリエットで」
「……俺がロミオ」

「チェンジィィイイッ!!無理無理無理無理!だってあたしら毎日バイトだよ!?練習してるひまないし!」
「君たちはなんの為に一緒に暮らしているんだ」
「断じて!ロミジュリの!主人公を!演じる為じゃ!ないっ!!」


うがーと喚くが決まったものは決まったものだと大道具係のエミヤ様は仰有った。ちくせう。



要するに、2ヶ月後に控える学校祭の学年別の出し物のことだ。けどあたしらは無論放課後なんてほっとんど居ないし周りに任せていたのだが………、いや寧ろどうしてあたしらをチョイスした。拒否権寄越せ。

いーやーだーと机の上に座りエミヤの椅子を蹴りあげると怒られた。スカートでそんなことをするなと怒られた。お前怒るとこ違うわ。


押し付けられた台本を見てパラパラ捲る。台詞多いし。ちょっとこれ覚えられないよ絶対。てかストーリーなんて「おおロミオ、貴方は一体どうしてロミオなの?」っていうシーンしか………ん?なんか違う?まいっか。

「つかなんであたしらが適任な訳」
「こっ恥ずかしい台詞を男女間で言うのだ。貴様等のようにバイト脳かつ馬鹿な奴等の方が羞恥心はないのではないのかと」
「ひっでえ言われようだなオイ」

クーも台本を捲り何やら所々台詞を呟いている。うわやべわたし笑っちゃう自信ある。

「まじ萎えるわー、今年もバンドしたいんですけどー」
「む?」
「ディルちゃんも入学したから種類増えるしヴォーカルに専念できると思ったのに…」

出来る気がしない。無理だ。

「まあ来年にして、今年は演劇に集中することだな」
「だってさクー」
「ギターとかもう忘れた」


ひょい、とクーは立ち上がりわたしの目の前にくる。なんだと思って見ていると台本を見ながらこほん、とわざとらしく咳をした。


「えー、私の愛する聖女さま。私の祈りを聞き届けてください。でなければ、私は絶望してしまいます」





静寂。





「ぶ、あははははははははははあははっはぁはぁっ、はあ、死ぬ!!ちょっま、ぐふっ、ちょあははははははあ、愛するっ、せい、せいじょ、様はははははしぬ、しぬ、笑い死ぬっ………!」
「……案外つれぇな」

クーは頭を掻きながら何時まで笑ってんだ!と丸めた台本をわたしの頭に叩き付けてきた。がしかし笑いが治まってくれる訳もなく、腹痛い、!

「おめぇもなんかやれ!!」
「ちょ、ちょ待って………!」

はあはあと呼吸を整え台本を捲る。あ、汗と涙出てきた。


「えーっと……」


台本とにらめっこ。


「……、どーしてあなたはロミオなの?私を想うなら、あなたのお父さまをすててお名前を名乗らないでくださいな。もしそうなさらないなら、私への愛を誓って欲しいですわ。そうすれば私はキャ「、っ、ぶはははははははは、あ、はあ、きもちわりぃ!!!ははははははっ!ひー、腹ッいてえ死ぬる!!」………」

ばんばんと机を叩きながら悶絶するクーを蹴りあげる。しね!最後まで言ってねえわ!


「……貴様等」
「はあ、はあ、あ?」
「何さエミヤ」


エミヤは溜め息を吐いて、もう少し頑張れと言ってきた。だってこれは絶対に黒歴史もんだって。


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