Giyu Tomioka



*R15程度


半年に1度の柱合会議に向かった冨岡を見送ったのは昼時、それから時計の短針が5回転した頃、名前は横になった体を起こした。大きな欠伸と共に、凝り固まった体を伸ばすと、骨が音を立てる。眠りにつくまでは暖かかった日差しも随分と傾き、空はすっかりと茜色に染まっていた。隊服だけで羽織を掛けずに縁側で寝ていたものだから、寝起きの体は風にあたって少し冷えた。身震いをしていそいそと部屋の中に入る。部屋は静まり返っており、家主はまだ戻ってきていないようだ。冨岡が屋敷を空けるこの日だけは、いつもは怒られる昼寝も喧しく言われないから名前は半年前から心待ちにしていた。

しかし、冨岡の帰りが遅い。普段ならばこの時間はもう戻っていて、普段の様子からは想像もつかないような大きな声で怒鳴り起こされているはずなのに。冨岡がこのまま帰ってこないような人間ではないことは継子の名前が一番よく知っているが、それでも不安は拭えない。近くまで探しに行った方が良いか部屋をぐるぐる回りながら考えていると、微かに戸が開いた音がした。大きく足音を立てながら玄関まで行けば、冨岡が神妙な面持ちで立っている。長く冨岡と時間を共にしてきた名前には、その表情に怒りが散りばめられているように感じた。こういう時は冨岡に話しかけても返事は何一つ貰えないことを名前は十分に理解していたので、おかえりなさいとだけ言って自室に引っ込むつもりだった。それを遮ったのは冨岡だ。


「逃げるな。」
「えっ…ちょっと…!」


強く掴まれた手首が慣性に逆らえず冨岡の方へと引き寄せられる。抱きしめられてそのまま首元に顔を埋めて深く呼吸をする冨岡の髪が喉元に触れて擽ったい。らしからぬ行動に、酔っているのかと香りを確認するも酒気は感じない。一体全体どうしたというのだ。こんな風に触れるなんて今までに一度もなかった。そもそも私達は師弟だ。それ以上でもそれ以下でもない。師として尊敬する冨岡を名前は当然突飛ばせるわけもなく、好きなようにさせていたら、ぬるりと名前の首を生暖かいものが伝う。感じたこともない感覚に思わずくぐもった声が漏れた。それを冨岡の舌だと理解するまでに、数秒。


「義勇さ…ん、なん、で…んっ…。」


聴こえているのか聴こえていないのか、冨岡の反応はない。次第に首筋から喉元に、耳たぶにかけてゆっくりと舌が撫で上がっていく。肩を叩いて拒否をするも、力強く締められた腕がそれを良しとしない。こんな冨岡を名前は知らない。男の顔をした冨岡を、名前は、知らない。耳たぶを甘噛みされてじゅるりと舐め上げられれば熱い吐息が不規則に刻む。小さく首筋に口づけをした冨岡の唇が漸く首から離れた。


「…お前は俺の継子だ。」
「…?何を言ってるんです…?もう1年は共にいるでしょう…?」
「何処へも行かせない。」


濃い蒼の目が睨んだかと思ったらそのまま体重が伸し掛かってくる。倒れそうになるも、支えられた冨岡の腕が名前に怪我をさせないように回っているものだから、玄関に尻を突く形で座らされた後にゆっくりと倒される。跨るように上に乗った蒼の目がどこか遠くを見つめている気がした。冷たい床に触れた両手が掠め取られた刹那、両腕を上げる形で冨岡の右手に固定される。数回瞬きをしていたら手首に締まるような感覚を覚えた。ぐっと手首に力を込めるも両手は言うことを効かない。縛られていると気づいたのは目の前の冨岡の満足そうな顔を見たからであった。


「なんのつもりですか。」
「…。」
「こんなの…っ!」


”継子にすることの度を超えている”、酷く歪んだ顔をしていたと思う。軽蔑、いや、恐怖だ。こんな風に感情をぶつけられたことは今まで一度もない。伸ばされた手が名前の女の部分に触れるのが怖くて涙が零れた。


「義勇さん、もう、止めて…。」
「やめない。」


胸に触れた手に力が篭る。甘露寺までとは言えないが程よく育った双丘が形を変えていく。一通り堪能した冨岡は、隊服の上をなぞっていた手をボタンにかけ、一つ、また一つと外していき名前肌を外気に触れさせる。あられもない姿を晒すことに羞恥心が襲うが、体を隠す為に伸ばしたい手は頭上で固定されており、抵抗を許さない。解けぬように結ばれた組紐を揺するように手首を擦り合わせていれば、冨岡の顔がゆっくりと右胸の頂点に近づいてくる。開いた口から赤い舌が覗いて、唾液を含んで滑るように舐める。電流が走ったような快感に奥歯を噛みしめて耐えた。


「やだ、やだ、これ以上は…っやめて…。」
「やめない。」
「どうして、」
「不死川が、胡蝶が、宇髄が…!名前は俺の継子だろう…!」


頂点を唇で啄んで、吸われる。甲高い声が玄関に響いた。荒い呼吸を繰り返していると、ついには口が塞がれて舌が絡めとられるように滑り込んでくる。逃げても離さないように追い込んでくる舌に呼吸を忘れて夢中になっていると、身体の快楽も忘れないよう弄る冨岡の手は止まらない。ああ、今日もこの人は言葉が足りない。柱の方々の名前を出されたところで、会議に参加していなかった私には何があったか分かるわけがないのに。その三人の共通点と言えば、お目にかかる度に撫でられたり甘味を与えてもらっていたり、甘やかされていたりしていたような気がしたけれど。


「名前、他の奴らに尻尾を振るな。」
「約束したら、やめてくれますか…。」


名前に抵抗する気力はもう残されていなかった。汗で額にへばり付いた前髪が力なく萎れている。肩で息をしながら、蒼の瞳を見つめた。


「……やめない。」


唇が首に吸い付き、紅い華を咲かせる。名前は諦めたように首を横に倒し、冨岡に差し出した。それによって吸い付きやすくなった首筋に何度も唇が落とされる。熱い息を吐いた名前の顔には薄っすら笑顔が浮かんでいた。身体だけではなく、気付かないうちに心も冨岡を求め始めてきているのだった。


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