Giyu Tomioka



※R15程度


布団に篭る熱に寝苦しさを覚え、浅い睡眠から覚醒すると首筋に汗が伝った。夏が過ぎ、季節は秋に移り変わろうとしている今日この頃、夜は汗をかくほどの気温じゃなかったはずだ。ベッドサイドに置いてある時計を顎を上げて逆さに見つめると、午前3時、気温25度を表示している。ああ、やはり、暑さで目が覚める程ではない。それでも確かに感じる熱の正体は紛れもなく名前の体に巻き付く逞しい腕と、隙間なくくっついている身体だろう。名前は時計を見つめる視線を隣で眠る義勇へと移した。開いた口の隙間から洩れる規則的な寝息が名前の額にかかる。汗で湿った髪が頬に張り付いている姿が艶めかしくて、寝ていても色気が出るような美人は羨ましいと心底思った。顔から首筋へ、首筋から鎖骨へ順に目を降ろしていけば開放的な胸板が目に映る。寝る前はTシャツを着ていたはずだが、いつの間にか水分を含んだ素肌に変わっているではないか。寝ながら脱ぐとは何とも器用な。…まさか、下も。唯一動く右手を指だけ触れる形にしてそっと義勇の腹筋から這わせて下げていくと、臍の下あたりに厚手の布の感触があってほっと胸を撫でおろす。素肌は寝起きの名前には刺激が強すぎるのだ。情熱的な夜はいつもその素肌に絆されていて、思い出すだけで込み上げる熱に眩暈がした。


「んっ…。」


寝ている義勇相手に欲情しそうになっていた自分が恥ずかしくて名前は背を向けようと身を捩るも、彼の腕がそうはさせない。腰に添えられた手は起きているのではないかと疑問視したくなるほど固く掴まれている。義勇の名前を片時も逃がさないという執着がしっかりと表れていた。逃れようとすればするほど力は固く強くなった。足まで絡められてとうとう逃げ場を失くしてしまう。比例するようにして発汗量も増えていくものだから、シーツにも徐々に湿り気が広がっていく。不快感がどうにも我慢できなくなった名前は申し訳なさもあったが義勇を起こすことに決めた。


「義勇、起きて。」


声と同じくして肩や胸を叩いたり、頬を手で擦ったりしても義勇は頑として目を開かない。微かな物音にでも反応する研ぎ澄まされた聴覚を持っていることを知っていた名前は狸寝入りかと疑う。それでも諦めずに声をかけ続けるも反応はない。まるで独林檎を食べて眠る白雪姫だ。姫にしては少し、いやかなり逞しすぎるけれど。姫はキスで目が覚めるけれど義勇はどうだろう。叩いても起きない彼が、唇が触れただけで起きるとは思えないが、試してみる価値はあると名前は思った。ぐっと顎を上げて喉元を晒すような恰好を取った名前は、精いっぱい首を伸ばして義勇の頬にキスを落とす。ぴくりと義勇の体が反応した瞬間、名前の腰がぐっと引き寄せられて彼の腰とぶつかった。そのことによって名前の背中は大きくそり、被さるようにして倒れこんできた義勇の鼻先が喉元に触れたと思ったら、首筋に生ぬるい感覚が伝った。


「…塩の味がする。」


漸く目を開いた義勇は余韻を感じながら舌なめずりをする。

義勇は随分と前に目を覚ましていた。名前の手が自分の臍に触れたあたりからだ。目が覚めた名前が連日の交わりを思い出して欲に濡れているのだと思った。その気なら乗ってやろうと様子を伺っていたが、あろうことか逃げようとしたので腹が立って強く抱き寄せてやった。それでも逃げようと体を捻るものだから、足を絡めて下半身を擦りつける。すると抵抗をやめた名前が優しく声をかけてきて、漸くその気になったかと、いつしか自分の方が夢中になっていることに気が付く。あくまで今日は名前から誘わせたかった義勇は狸寝入りをすることに決めた。拙い誘い方に最後は手を出してしまったが。つまり、名前の予想は当たっていたのである。


「…ずっと起きてたんでしょ。」
「今起きた。」
「うそつき。」


訝しげに名前は義勇を睨む。義勇は名前の腰を掴んでいた手をゆるゆると動かした。その動きが寝起きではないことは明らかで、期待するように細められた目が主張している。起きたことには変わりはないが、別のものを目覚めさせてしまったと名前は焦る。


「それで終わりか?」


煽るように言った義勇は啄むように何度もキスを落とす。唇には触れず、頬や額などもどかしい部分を意図的に狙って、名前が耐え切れなくなるのを待っている。早く求めてこいと腰を撫でていた手をスウェットの中に滑り込ませた。汗ばんだ肌に義勇の熱い手が触れると益々体温は上昇する。茹りそうなほどの暑さにきゅっと目を細めた名前だが、義勇には名前が己から与えられる熱に浮かされているように見えていた。完全に二人に思考はすれ違っている。


「義勇、退けて…お願い…。」


限界を感じた名前は手のひらを義勇の唇に押し当てて顔を離させる。当然拒否された義勇は面白くない。手のひらを舐めたり、噛んだりと甘える素振りを見せて誘惑する。どうだ、これでもまだ逃げるか。しかし、名前から発された言葉は義勇の欲しいものとは真逆であった。


「汗かいててほんとに暑いの、だからくっつかないで…。」
「は…?」


面を食らった義勇から力が抜けたのを見計らって名前は体を離して布団をめくりあげた。汗が一気に冷えて熱が収まっていく。心地よい涼しさに小さな欠伸が出て、まだ夜中であることを思い出させた。一方で義勇は、この女は何を言っているのだと思った。自分から触れておいて、その気にさせておいて、あんまりだ。求められればいつだって布団の中で横向きに抱いた状態から、起き上がって覆い被さる準備は出来ていた。下半身も誤魔化しが効かないほど昂っている。そんな義勇の気持ちを知らない名前は仰向けになって寝る態勢をとろうとした時、耳元で電子音が鳴った。立て続けに連続して五回ほどボタンを押す音が聞こえて、何事かと名前が義勇を見ると、その手にはリモコンが握られている。しばらくすると冷気が部屋を駆け巡り、肌を射した。あまりの寒さに身震いした名前は再び布団を被ろうとしたが、義勇はその手を阻み、流れるように馬乗りになる。


「まだ暑いか?」
「いや、寒い…あれ、義勇怒ってる…?」
「名前、今日は寝られると思うなよ。」


名前の腰に当てられた固い欲望は服越しなのに十分に熱を持っている。今度は名前から否定の声が上がる前に義勇は口を塞いで、舌を絡める。小刻みに口の端から洩れる息もまた、熱気を含んでいた。


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