Giyu Tomioka&Tengen Uzui



右手首を掴む冨岡の手、左手を絡める宇髄の手、睨み合う双方。どうしてこうなった。名前が一番聞きたい。

事の発端はしのぶが”誰が名前を家まで送るか”と言いだしたところから始まった。そもそもこの時点で可笑しいことに今となっては気づいている(普段であれば即解散)が、全員が半年に一度の旧友との飲み会で頭が回らないぐらい飲んでいたので、不思議に思わなかったのだ。真っ先に名乗りを上げたのが蜜璃で、名前は大賛成で二人で帰ろうとしたところを煉獄に”女同士で夜道を歩くのは危ない”と止められた。女子組が駄目となると残りは7人。尤もな提案をした煉獄が送ってくれるのかと思いきや、彼は家族が待ってるからと早々に帰っていった。流れに乗って兄弟がいる不死川や無一郎も帰っていった。伊黒は蜜璃と帰りたいオーラを全く隠さないから、しのぶがお膳立てして二人で帰して、さぁ、残ったのは3人。


「あ、悲鳴嶼さん家の方向同じですから送ってもらってもいいですか?名前さんごめんなさい、今日は楽しかったです。」


にこにこと手を振って頼みの綱のしのぶと悲鳴嶼が離脱。とうとう残されたのは冨岡と宇髄になった。冨岡はいつも飲み会が終わると気が付いたら居なくなっているぐらいの男だから、今日もそうかと思ったが違うらしい。一方で宇髄も女の子を引っかけて一人で三次会をするのかと思いきや残ったままだ。名前の記憶では二人の仲はそう悪くなかった気がするのに何故かバチバチと火花を飛ばすように睨み合っている。その姿をじっと見ているとお酒を飲んで夢見心地だった頭も夜風にあたって徐々に冴えてくる。時間も時間だから家に帰って早く横になりたいのだけれど。居たたまれなくて名前は手を叩くと一つ提案をした。


「私は一人でも問題ないのでお二人とも疲れているでしょうし、解散…、」


解散という言葉に反応した二人は互いに向けていた視線をすぐさま外すと、名前の手を掴む。ここで冒頭に戻るわけだ。


「疲れただろう、行こう。」
「いーや、俺と帰んだよ、な?」
「私、本当に一人で大丈夫ですよ?」
「襲われてからでは遅い。」
「そうだぜ、お前華奢なんだから抵抗できねぇだろ。」


ぐぐぐ、と両側から引っ張られる手の方が暴漢に襲われるよりも何倍も怖いことを二人は絶対に理解していない。次第に青筋を浮かべながら小競り合いを始めるものだから名前は気が気でない。深夜といえど、明かりの揺らめく街はまだまだ人通りがあり、街角の一角で美形二人が女を取り合っているのはいい見世物だ。


「譲れ冨岡、お前派手に眠そうだろ。帰ったほうがいいって。」
「それを言うなら宇髄、お前もだ。片目が寝ている。」


身長差から名前の頭の上で繰り広げられる口論に名前は耳を塞ぎたくなった。実際には手を塞がれているから不可能なのだが。このままでは埒が明かないので名前は交渉の切り札を取り出す。


「…ご迷惑でなければお二人ともに送っていただきたいです。」
「無理だ。」
「できねぇな。」


そういう時だけ息を合わせて否定し、何事もなかったかのように再び口論を始める。折角楽しい飲み会だったのに、雰囲気を壊さないでほしかった。ひいては、自分が原因で争いになるなどもっての外。先に帰っていった皆の様に笑顔で、また次も会うことを楽しみに帰りたいだけなのに冨岡も宇髄も分かってくれない。交渉のカードを破られた名前はとうとう痺れを切らして啖呵を切る。


「だったら私ここからタクシーで帰りますから!それが一番安全です!いいですね!」


普段滅多に怒ることのない名前の声に彼らは目を見開いて、驚きのあまり手を離した。酒が入っているために、少し目頭に力を入れて声を荒げただけで涙目になる。その表情を見た二人はごくりと唾を飲んだ。とりあえず場を収めることに成功した名前は同じことを繰り返さないために離されて自由になった手を上げながら大通りへと走る。しかし、走ってくるタクシーは軒並みランプが消えており人を乗せているものばかりだ。これならば歩いて帰ったほうが早いのではないかと考えた矢先、今度は両肩に手が置かれた。


「お前の気持ちを考えずには派手に突っ走って悪かった。三人でいいから送る。」
「すまなかった。我慢する。」


追いかけてきた二人の険悪なムードはすっかり消えており、飲みの席のような穏やかな雰囲気に戻っていた。1人で走り出したものの不安だった名前は追いかけてきてくれた二人の手をぎゅっと握ると、肩を並べてゆっくりと夜道を歩きだしたのだった。


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