焦がれるシロップ | ナノ




Toru Amuro


まずは睡眠不足の解消から始めましょう。そう言うと安室は私の寝室のクーラーを回しに行った。曰く、寝る30分ほど前から冷やしておけば、寝付きやすいのだそうだ。普段は電気代を節約しようと必要最低限の時間しかクーラーをつけない生活を送っている。節約による健康被害に泣かされる日々を改善し、快適な生活にシフトしていく必要がありそうだ。クーラーをつけ終わった安室が戻ってくると、テレビを二人で並んで見る。


「こうやって二人でのんびりするの久々だよね。」
「そうですね。最近はなかなか会えなくてごめん。」
「ううん、仕事頑張って。あんまり無理しないようにね。」
「…放っておいたら七海がこうなるから気を付けます。」
「…それに関してはごめんなさい。」


テレビをそっちのけで話していたら、いつの間にかドラマはエンドロールに移っていた。来週の予告まで見てから、テレビを消す。それを見届けた安室は、寝室へと先に向かい、ドアを開けて私を誘う。


「さて、準備は出来ました。寝室に移動しましょう。」


寝室のドアを開けると、冷気が流れ込んできた。リビングよりも狭い寝室は高めの温度に設定していてもよく冷える。安室は寝室に電気をつけないまま入っていった。


「はぁい。ん?もう真っ暗にするの?」
「ええ。寝る前に強い光を浴びていると寝付きにくいんです。なので、サイドテーブルにあるライトだけつけて少しお話ししましょう。」


安室がランプをつけると、真っ暗だった部屋にほのかな明かりが灯る。その明かりを頼りにベッドまで移動し、タオルケットを肩にかけた。さすがに冷えすぎているのでリモコンで温度を1度上げる。リモコンを置くと、ベッドの上に腰かける安室に寄っていき、体を寄りかからせる。半袖Tシャツにズボンというラフな格好をお互いしているので、肌同士が触れることで熱を感じる。冷えた体にはちょうどいい温かさだ。しかし、安室にとって触れた私の肌は冷たかったのか、何度も確かめるように触れてきた。


「随分と冷えてますね。僕のちょうどいい温度にしたのは失敗でした。女性のほうが冷えやすいんでしたね…。」
「ううん、大丈夫だよ。透が温かいから。」
「じゃあもっと引っ付いていましょう。」


肩を抱かれて腕の中に閉じ込められる。倒れこむように座ったまま抱きしめられているから、耳が安室の心臓の鼓動を拾う。とくんとくんと一定のリズムを刻むそれは、聞いているとどこか安心感を覚えた。そのまま顔を摺り寄せれば、安室はくすぐったそうに笑う。


「猫がマーキングするみたいだ。髪がすれてくすぐったいよ。」
「たまにはいいでしょ?とても安心するの。」
「僕も七海の香りに包まれて安心してますよ。」


私の髪を手で梳きながら、安室は鼻を近づけて深く深呼吸する。他愛のない会話をして、触れ合う時間を堪能していると、眠気が襲ってきた。瞼が重くなってきて、寄りかかる比重が重くなっていく。それを察したのであろう安室は抱きしめたまま、ゆっくりと体を横へと倒す。そして、体が打ち付けないようにゆっくりと体をベッドに沈ませると、背中を一定のリズムでぽんぽんと叩く。


「ゆっくり寝てくださいね。」


先程よりも少し低くなった甘い声が耳に届く。


「ん…、透もね…。」
「七海のおかげでよく寝れそうですよ。…ほら、目を閉じて。」


言われるがままに目を閉じると、落ちていく意識にあらがえなくなった。溶ける意識の中で、額に感じた熱はいったいなんだったのだろうか。

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