ひとさじいかが? | ナノ




Jimpei Matsuda&Rei Furuya


そうと決まればさっさと買い物して帰ろうぜと手を引く松田に流されるままついていった。降谷はいいのかと聞くと、合流して時間くうより効率的だといわれ、それもそうかと納得してしまった。ごめんなさい降谷さん。あとで連絡します。


「今日のメニューは?」
「あー…まだ決めてませんでした。いつも降谷さんと食べるときは降谷さんが決めるんで。」
「へぇ…降谷が。」


ふーんと至極面白そうな笑みを浮かべた松田が買い物かごを取る。私が持ちますと言えば、こういうのは男の仕事と奪われないよう反対側の手へ回す。


「なぁ、今日の晩飯俺がリクエストをしてもいいか?」
「その方が助かります、何も思いつかなくて。」
「じゃあ回鍋肉がいいな。」
「おーけーです、だったらキャベツとピーマンですね。」


回鍋肉なら大歓迎だ。多めに作って明日のお弁当に入れていこう。問題なのは食べ盛りの男性が二人いるということ。…残らなそうだ、うちのフライパン小さいし。たまには職場の先輩とランチでもいいかもしれない。ちょうど野菜コーナーにいたからキャベツとピーマンを選んでかごに入れると、松田の顔が引きつった。もしかしてこの人、ピーマン苦手とか。いい大人がまさか、ね。


「七海ちゃんピーマン入れんのやめね?」
「えー、でも入れたらおいしいですよ。うちでご飯を食べるなら好き嫌いはだめです。」


どうやら予想は大正解だったようだ。松田を押し切って野菜コーナーを通り抜けた。こっそりかごから売り場に戻されてはたまらない。タケノコの水煮や豚肉を入れて足早に買い物を済ませる。この時間の会計は大行列で、待ち時間を松田と話しながら過ごす。大半は降谷の話だった。そのうちに順番は回ってきて、あわただしそうにレジ打ちの店員がかごの商品を通していく。2450円でーす、と間延びした声に財布を取り出そうとすると、横から松田がカードを出した。


「え、松田さんいいですよ。」
「いいんだよ、男を立てとけば。それに、ここでもたもたしてたら後ろに反感買うぜ?」


後ろを指した親指の先を見れば大行列。お言葉に甘えてお礼を言うとぽんぽんと頭を撫でられた。家に帰ってから払おうと、財布をしまい、代わりに買い物袋を取り出す。手際よく袋詰めを済ませてから降谷に連絡を取ろうとスマホを見ると、大量の着信とメール。覗き込んできた松田も引いていた。降谷に電話をかければ1コールもしないうちに出て、車で待ってますとお怒りの様子だった。どこに留めたかわからないので、松田に案内してもらいながら走る。


「あーほらいた、降谷。」
「遅い。」
「降谷さんごめんなさい、買い物早く済ませたほうがいいかなって…。」
「俺は怒っていませんよ?ちょっと機嫌が悪いだけですから。」


完全にご立腹で、笑いながらも腕を組む姿勢を解かない。美味しいご飯作るから、機嫌直してくださいと言えば、しょうがないですねと許してもらった。さぁ帰るぞ、と家の方角に向かって歩き出したところで二人の手がわたしの両肩をそれぞれつかんだ。


「待ってください、車に乗っていった方が早いでしょう?」
「そうそう、降谷は家わかるだろうけど俺知らねぇし。助手席乗って案内してくれないと困るんだよな。」


車に乗せてくれるのはありがたい。早く帰れるし、私だけ徒歩で帰っても二人は部屋に入って待つこともできないからできれば同じタイミングで帰りたい。松田は初対面だが悪い人でないことは買い物を通してわかったことだし、案内も必要だ。


「松田さん、案内するので乗せてもらってもいいですか?」
「おう。」
「だめだ、七海は俺の車に乗せる、松田は今日俺を尾行して来たんだから、きっと今回も大丈夫だ。」
「そういってお前撒く気だろ、わかってるんだぞ。」


女1人を2人の美形の男が挟んで喧嘩している様子が面白いのか、先ほどから主婦の方々の視線が痛くなってきた。これ以上いると私の心臓が持たない。二人の背中をポンと叩いてやめさせた。


「早く帰りましょ。松田さん、車だしてください。」
「了解。…じゃ、またあとでな降谷。」
「…覚えてろよ。」


とりあえず収まったらしい二人は各々の車の鍵を開けて乗り込んだ。私も松田の車のドアを開けてお邪魔する。シートベルトを締めると、ここからの大まかな道のりを説明して車は出発した。


「ほんとにこっちでよかったのか?」
「松田さんが家の場所知らないのは事実ですし。それに食材っていう人質取られてるのに降谷さんに撒かれたら困りますもん。」
「なるほど、俺は食材の次ってわけか。」


そう、買い物袋をずっと持ってもらっていたのだ。走って駐車場に向かうとき、重いから貸せと言われて渡していた。さりげない気遣いが出来る松田にときめいたのは伏せておくとして。案内をして家に到着するころにはすっかり日は暮れていた。

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