Jimpei Matsuda 最近降谷の付き合いが悪い。仕事帰りに萩原と飲みに行こうと誘っても先約があると言って断られてしまう。仲のいい探偵の…確か工藤とか言ったか。工藤と食事にでも行くのかと聞けば工藤ではないという。俺達に話せないような相手、それを萩原と詮索した結果、女だと確信した。そういえば普段スマホをあまり触らない降谷が頻繁に連絡をとっている様子を見るし、連絡が終わったあとは機嫌がいい。そして何より、スマホを触っている日に限って早く帰る。昼休みに一緒に飯に行ったとき、スマホを見て笑ってたから今日も確定とみていいだろう。気になる、後をつけて女の顔を拝んでみたい。 仕事の休憩に喫煙ルームに寄ると、ちょうど反対側から萩原がやってくる。1人で一服するのも悪くないが、どうせならしゃべり相手ほしい。ドアを開いて無理やり引っ張り込むとしぶしぶ付き合ってくれた。喫煙ルームに自分たち以外誰もいないことを確認してから、本題に入る。 「萩原ー、今日降谷尾行しねぇ?」 「2人でつけたら降谷のことだし気づくだろ、松田任せた。」 「それ絶対めんどくさいだけだろ。」 面白がっているくせに厄介事はサラッと俺に押し付けてくる萩原に、ライターを借りる。煙草をふかしていると、サングラスは目立つから外していくように言われる。くそ、尾行するのは確定かよ。なんかあっても報告してやんねぇ。吸殻を灰皿へと押し付けて火を消す。萩原もそれを見て、立ち上がると報告よろしくと一言残して持ち場へ戻っていった。 所変わって警察庁前、俺は降谷の退勤を待ち伏せていた。車内に隠れて出入り口を観察する。煙草へと自然と伸びる手を尾行のためにとめると、お待ちかねの降谷の登場だ。降谷は愛車のRX-7へと乗り込むと、走り去っていく。こちらもエンジンをかけると後を追った。幸運にも、信号に撒かれることなく順調に尾行は進んでいた。 「…降谷の家ってこっちの方角だったか?」 車を走らせること5分、途中までは確かに降谷の家の方角に走っていた。しかし先ほどの信号を逆方向に曲がるなど、様子がおかしい。俺は彼女の家に行くものだと想定してハンドルを切る。…もしくは降谷に気づかれて撒かれているかの二択だが。それからまた10分ほどして降谷の車はスーパーの中へと進んでいった。駐車場に車を止めるとそのままスーパーの中へ入っていく。待ってようか迷ったが、なんとなくついていくことにした。平日のこの時間は仕事帰りや主婦で溢れかえっている。少しでも目を離せば見失い、尾行は失敗するだろう。幸いにもターゲットは目立つ金髪、追いやすい。そう思った瞬間、目の前の金髪は人ごみに消える。 「あ?どこに消えた…。」 人ごみをかき分けて進むが降谷の姿はない。仕方ない、あきらめて車で待とうと出入り口へと戻ろうとした時だった。何者かに肩をつかまれる。 「俺を尾行しようとはいい度胸だな。」 「…気づいてたのか。」 肩に置かれた浅黒い手。そして金髪。 「当たり前だ。面白かったし撒かずにつれてきたが…、ここからはダメだ。」 「なんでだよ、どうせ彼女に会いに行くんだろ、紹介しろ。」 「彼女じゃないよ、お前に会わせたら絶対…いや、何でもない。兎に角これ以上は…。」 渋る降谷に詰め寄るが頑なに相手が誰なのか話さないし、連れて行く気もないようだ。強行突破、撒かれずついて行ってやると意気込んだ時だった。 「あれ、降谷さんスーパーで会うのは初めてですね。もしかして食材見ようとしてました?」 「七海…。」 「そちらは同僚さん?」 声をかけてきたのは俺らとそう歳が変わらない女で、どうやら降谷と親しいらしい。もしかして。この女が降谷の。降谷を見ると俺をにらみながら口の動きだけで"早く帰れ"とせかしてくるが、"やだね"と返す。 「どうも、降谷の友人の松田だ、よろしく。」 「水野です、こちらこそよろしく。」 互いに手を差し出して握手をしようとするが、間に降谷が割り込んだ。 「よろしくしなくていいですよ七海、松田とは今後会うこともないでしょう。」 「末永くよろしく七海ちゃん。」 「松田お前は口を閉じて今すぐ立ち去れ。」 「おーこわいこわい。」 まれにみる剣幕に軽口をたたくと降谷がぐいぐいと俺の背中を押して立ち去らせようとする。そりゃないぜ、こんな面白い場面みすみす逃すかよ。水野は俺らの絡みを見ながら笑っていた。恐らく、降谷の砕けた姿を見たことがないからだろう。女といるときは基本紳士を装っているからな、こいつは。降谷との攻防戦をしているとタイムセールと食品売り場のおばちゃんの大きな声が聞こえてくる。そういえばご飯時だったな。…いいことを思いついた。背中を翻すとバランスを崩した降谷が前のめりになり、タイムセールで押し寄せた人の波にのまれていく。その隙に水野のところに向かうと質問を投げかけた。 「七海ちゃん今から降谷とご飯?」 「不服ですが、そうですね。」 「それ、俺も同席したいんだけど。いいよな?」 「は?」 降谷の秘密知りたくねぇ?と、ぐいっと顔を近づければ顔を赤らめた七海に、初心だと確信した。最終的に肯定の返事をさせるとため息を吐いて額を抑えた七海とは裏腹に、俺は状況を楽しんでいた。 [しおり/戻る] |