ひとさじいかが? | ナノ




Jimpei Matsuda & Kenji Hagiwara


「いやーここが七海ちゃんの家か。おじゃまします。」
「…おじゃまします。」


元気な声であいさつしてきたのは萩原、後ろから至極嫌そうな顔をしながら入ってきたのが松田。この光景は降谷が松田を連れてきた時にも見た。違うところといえば、松田は今日降谷のポジションにいるところだろうか。本来は松田だけが来る予定だったが、来る直前になって萩原を連れていくと連絡が入った。別に人数が増えたところで食材は松田任せになっていたし、私がした準備といえば座布団を用意したぐらいだ。買ってきてくれた食材をお礼を言って受け取ると、リビングに通してキッチンへと向かう…はずだった。萩原も松田もジャケットを脱ぐとすぐにキッチンに来て手伝うという。待っているように言っても、今日は3人分だからと手伝う姿勢は崩さない。作る側の私からしてみれば2人分も3人分もそう大差なく、むしろ狭いキッチンを3人で使う方が手間がかかる。しかし、手伝うという親切心を無碍には出来ず、結局は手伝ってもらうことにした。


「松田切るの下手すぎだろ、サイズバラバラなんだけど。」
「うるせえお前も似たようなもんだろうが。」


野菜を切りながら戯れる二人を見ていると小学生の頃の調理実習を思い出す。切られた野菜をもらい私が炒め始めると後ろから覗き込むように手元を見られる。


「そんなに物珍しいです?」
「いや、器用だなと思って。」
「手際いいからつい。厨房が見えるレストラン見てる気分だよ。」


感心されるのは悪い気はしないが、むず痒い気持ちになる。調味料を混ぜて味を調えると、二人に味見をしてもらってから皿に移した。その間に松田にはご飯を、萩原にはみそ汁をよそってもらうと、各々の仕事を終えてテーブルに並べた。コップや箸を並べると、初めて松田が来た時のように箸がない事案に直面する。萩原に割りばしでいいか聞けば、彼も今度買ってくると言った。水野家レストラン計画が着々と進んでいるのは気のせいじゃないはず。


いただきますを済ますと、今日のメインである肉野菜炒めへと皆箸を伸ばす。松田にしてはあっさりしたおかずのリクエストで驚いたものの、肉もそれなりに入っていることから男飯感はぬぐえない。


「七海ちゃんの料理食べるのは二回目だけど、出来立ては格別に美味しいな。」


萩原は相変わらず褒め上手だ。それに、具体的に何が美味しいのか伝えてくれる。ありがとうと礼を述べると、その和やかな空気を引き裂くように松田が横槍を入れてくる。


「は?おまえいつ会ったんだよ。」
「公園でたまたまお弁当食べてるところ見かけてさ。」
「なんだよそれ聞いてねぇ。」
「お前だって隠してただろ。お互い様だって。」


突如始まった喧嘩は松田をいなす萩原に軍配が上がった。二人の会話をテレビ代わりに見ていると急に話を振られる。


「そういえばこの前この辺で祭りあったよな。行ったのか?」
「いえ、ベランダから祭りに向かう子供たちは見てました。」
「一緒に行く相手いなさそうだもんな。」
「失礼な。降谷さんと花火は見ましたよ。」


そう言うと二人は目を見合わせて悔しそうな顔をする。そして私に聞こえないようにこそこそと内緒話をする。話が終わったかと思うと、二人は勢いよくご飯をかきこみ始めた。その様子に唖然としていると、食べ終わった彼らはちょっと出かけてくると言い、財布だけ持って出ていった。一体何だというのか。1人になってしまった食卓で、残ったおかずを食べる。黙々と食べて、5分ほど経つと2人はビニール袋を携えながら戻ってきた。何を買ってきたのか聞くと、二人とも"いいもの"と表現するだけで直接的な答えを教えてはくれない。それよりも早く食べろと急かしてくる始末だ。急かされながらご飯を食べ終わると、片づけもしないまま腕を引っ張られ、玄関まで連れていかれた。


「ちょっと、どこ行くの?」
「マンションの近くの公園。あ、バケツあるか?」
「あるけど…もしかして。」


公園、バケツ、コンビニで買えるもの、先ほどまでの会話を照らし合わせて考えると思い当たる節がある。急いで洗面所からバケツを持ってくると、三人そろって部屋を出た。





「暗いな、ここ。」
「足元気を付けてね七海ちゃん。」


萩原に手を引かれながら公園の中ほどまで入り、私はベンチに腰かけた。萩原は私の手からバケツを取ると水場まで走り、水を十分に入れて戻ってくる。一方松田はビニール袋から花火を取り出して分ける。分けた束から私たちに一本ずつ持たせて、松田はポケットからライターを取り出した。松田は自分の持つ花火を火種にするために火をつける。先が燃えてしばらくすると勢いよく火花が飛び出した。


「おー、すげーな。久々だわ。」
「松田さん、こっちにも火ください!」
「俺もー。」


二人とも花火を持って挟むように松田に近づくと、火を移してもらう。数秒後、私の花火も音を立てて光りだす。打ち上げもいいけどこっちも風流だ。三人で火が切れないように交代交代で移し合いながら楽しむ。手持ち花火なんて高校生以来かも。しゃがみこんでまったり楽しんでいると、二人は振り回しながら遊んでいる。


「もう、子供じゃないんですから。」
「男なんてみんなこんなもんだぜ。…あ、これで最後か。」


松田が持った花火が消えると、あたりは静まり返った。1パックの花火を3人で遊ぶとそれはあっという間に終わってしまう。花火の後はどうしてこうも儚いのだろう。各々後片付けをして、バケツとゴミ袋を持って公園を後にする。


「今度はもっとたくさん用意してやろう?今日は急だったし。」
「そうですね、次は地面に置くタイプのやつも欲しいな。」
「ん。だからそんな寂しそうな顔すんな。」


くしゃくしゃと髪を松田に撫でられる。寂しいとは感じていたが、顔に出していたとは自分では気づかなかった。恥ずかしくなって顔をそらそうとしても、両側にはさまれていては無駄な抵抗で、仲良く三人マンションへと戻るのであった。

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