Ran Mouri & Sonoko Suzuki 席を移って早々に自己紹介を済ませた。高飛車で財閥嬢の園子ちゃん、やさしそうだけれど芯が強そうな女の子は蘭ちゃんで、二人とも帝丹高校在学中の女子高生だそうだ。私が帝丹高校のOBだと告げると、蘭も緊張がほぐれたのか笑顔で話してくれる。 「…で、安室さんを手のひらで転がす恋愛テクをあたしに伝授して!」 「だからねぇ…。」 フォークを私の方に刺しながら懇願する彼女だが、それは行儀が悪すぎるのではないだろうか。蘭がまぁまぁと言い、黙認しているところを見ると普段からこんな感じだということは簡単に想像できた。 「だってあの安室さんよ?何もしなくても寄ってくる人が、一人の女性に固執…七海さんも罪な女ね。」 「言われてみれば確かに。安室さん付き合ってる人いないって言ってたもんね。」 「え?過去にもいなかったの?」 「あたしたちが知り合ってからはいなかったよね。」 以前家に来た際にいないと言っていたのは覚えている。蘭達と降谷がどのくらい長い付き合いをしているのかは知らないが、それなりの期間はいないことはわかる。あの美形に彼女がいなかったのに、突然普通の女が近くにいたら興味もわくことだろう。なんとなく蘭達の気持ちがわかった気がする。話をしながらコーヒーを飲んでいると軽食が欲しくなり、三人でつまめそうなサンドイッチを注文した。 「そういえばご飯を食べる付き合いって言ってたけど頻繁に行ったりするの?」 「そうだね、週一ぐらいで来てるかな。」 私が言った瞬間空気が凍った。反応がないことに、自分が言った言葉を思い出し、頭を抱えたくなる。しまった、完全に墓穴を掘った。食べに行く機会よりも圧倒的に食べにくる機会のほうが多いからつい"来てる"と言ってしまった。そんな話を彼女たちが追及してこないはずがない。案の定どういうことかと問い詰められる。 「七海さんここまで来たら吐いてもらうわよ。」 「女子しかいないんですから話しましょ、七海さん?」 サンドイッチを片手に梓までもが参戦してきた。テーブルにおいてそのまま梓は私の隣に座る。店長さん、この人サボってますよ。女子だけというが先ほどまで老夫婦が座っていたのではなかったか。店内を見渡すと、テーブルには誰も座っておらず、現在は私たちの貸し切り状態になっている。これは堂々とサボれるわけだ。 「さあ七海さん?」 三人が声をそろえて言えば、その迫力に押し負ける形で私も渋々口を開いた。 「安室さんが買ってきてくれる食材を私が料理して一緒に食べるんですよ。」 「なーるほど、それで安室さんは胃袋を捕まえられちゃったわけね。」 園子はにやりと笑う。そして手を胸の前で組むと、自分と自分の彼氏のことを想像しているのだろう、にやけていた。蘭は顔を赤くしながら週一で家デートとつぶやいているし、梓はただにこにこと笑っている。私だけしゃべらされる空気に耐えられずサンドイッチを頬張った。しゃきしゃきのレタスにハムが挟まれたそれは、軽食にはもってこいで、ついつい手が伸びてしまう。私が食べ始めても盛り上がった三人は止まらず、黄色い悲鳴を上げながら話し続けている。 「でも安室さん料理上手なのにわざわざ七海さんの料理を食べに行くってことは…。」 「安室さんの愛ね。」 とんでもないところまで発展しているが私は悪くないぞ。すべては降谷がイケメンすぎるせいだ。今度ポアロに来て冷やかされて恥ずかしい思いをすればいい。ここで私は純粋な疑問をぶつけた。 「安室さん料理上手なんだ?でも私の家に来ても手伝ってくれないよ?」 「もー、七海さんそんな惚気いらないって。」 「え?惚気?どこが?」 「妻が自分のために作ってくれているところ、眺めてたいもんでしょ。」 …妻じゃないってば。 [しおり/戻る] |