Rei Furuya 高校生を遅い時間まで出歩かせることはできないので、また今度休日に予定を取り付けて高校生探偵たちと別れた。服部は、工藤の家に泊まるから一緒に夜通し話そうと提案してきたのだが、私が何か言う前に降谷が断っていた。異性を夜に家に連れ込むのはよくない、だとか。どの口が言っているんだと悪態をつきたくなったがこらえた。そして今、降谷の車で家に送ってもらっている最中といったところだ。 「夜ご飯といえばいつも七海に振舞っていただいてましたが、外食もなかなか悪くないですね。」 「高校生と普段話す機会もないから楽しめたね。」 「まだ話したかったですか?工藤くんの家で。」 「…ううん、どのみち断る予定だったよ。今日は見たいドラマがあったから!」 新喜劇のようにわかりやすく肩を落とす降谷だったが、ハンドルをしっかりと握り、安全運転を続けていた。そうじゃないでしょう、とあきれながらに言われたが、高校生にとって私は眼中にないと思う。10までは違わずとも、それなりに歳は離れているはずだ。あの二人にとって私は興味深いお姉さんぐらいの立ち位置にいるだろう。 「男女の関係なんてどこで変わるかわかりませんからね。案外あなたはコロッといきそうで俺は怖いですよ。」 「そんな軽くないから安心してよ。それとも高校生に手を出すような女に見える?」 「…あなたは手を出される側でしょう…。」 今度は大きくため息をついた降谷は、ウインカーを出して車を歩道に寄せた。そしてブレーキをかけると完全に車を停車させ、エンジンを切る。ここは家に近い場所に位置するが、家の前ではない。 「あの、降谷さん?」 「ちょっと夜風にあたりながら話しませんか。あそこのベンチで。」 顎で私の後ろに見える公園のベンチをさす。夜の静まり返った公園には誰もおらず、街灯がただ照らすのみ。夜は一人なら絶対に立ち寄らない場所だ。せめてもう少し明るいところにしたらどうかと提案する前に、降谷はさっさと車から出て、私側のドアを開けた。慌ててシートベルトをはずして車から降りる。場所を変える気はないらしい。 「ここお化けでそうなんですけど。」 「大丈夫ですよ、憑りつかれる前に倒してあげますから。」 「ええー、物理攻撃きくんですか…。あ、でも降谷さんなら精神攻撃もできそうですね。」 「それはいったいどういう意味で?」 その笑っているようで笑ってない目は、十分私の精神に攻撃を仕掛けてきている。思わず数歩後ずさりすると、擦れる砂の音がやけに鮮明に聞こえた。怖くなって降谷のところまで戻ろうと近寄るが、お仕置きですと言った降谷はベンチのほうへ速足で歩いていく。 「待ってよ!ごめん、謝るから!」 聞こえないふりをして降谷はベンチのところまで結局足を止めてはくれなかった。あとから小走りで走ってきた私に対し、遅かったですねと言ってのける。…もうみそ汁作ってあげない。隣に腰を下ろすといい運動になったんじゃないかと二段階で嫌味を言われた。…おかずも作ってあげない。白米だけ出してやる。 「冗談ですよ。ちょっと言いすぎました。…それよりも、最近頻繁に松田と会ってませんか。」 「松田さん?降谷さんと会うのよりちょっと少ないぐらいだけど…。」 「そうですか。」 「なにかあったんです?」 「いや、なんでもないよ。」 理由もなく聞いてくるような人じゃないから、なにか意図はあるんだろうけれど、口を割ってはくれない。巧みな話術で話をうまく変えられてしまって、その後言及は出来なかった。体も冷えたことで、そろそろ帰ろうと二人共に立ち上がり、公園を出ようとする。公園を囲う木が死角となって、歩いてくる人に気づかなかった私は、出会い頭にぶつかった。 「っすみません!」 「いえ、こちらも不注意でしたので気になさらず。」 ぶつかったのは物腰柔らかそうな眼鏡をかけた男性だった。完全に私が飛び出す形だったのに、自分も悪いと言ってくれる気遣いがありがたかった。反動で後ろに倒れないようにとっさの判断で掴んでくれたのだろう手を見ていると、彼のほうは後ろにいた降谷を見て感嘆の声をあげている。降谷も降谷で男性の顔を見るなり急に喧嘩腰になった。 「なぜおまえがここに…!?その人から手を離せ!」 「よっぽど大事なようですね。…飼い犬にはちゃんとリードをつけておかないと逃げられますよ。」 「お前に言われなくてもわかってるさ…!」 降谷は無理やり男性から私を引きはがして背後に隠した。その様子を見て男性は顎に手を当てて、何かを考えるようなそぶりを見せる。そして口角を上げて眼鏡を人差し指で押し上げた。 「時にリードをつけていても、誰かに奪われることもありますからね。…気を付けて。」 それだけ言い残すと男性は軽く頭を下げて闇夜に消えていった。 [しおり/戻る] |