ひとさじいかが? | ナノ




Shinichi Kudo & Heiji Hattori


「水野さんこっちこっち!」
「ほー、このねぇちゃんが工藤が言っとった…。」


仕事終わりにスマホを確認すると、工藤から夕食のお誘いが来ていた。ちなみにアドレスは前回喫茶店で会った時に交換済みだ。今まで連絡がなかっただけに今回のお誘いは驚いた。幸いノー残業デーだったため、急いで駆け付ければ待たせることもないだろうと走って向かった。待ち合わせ場所につくと、工藤のほかに見知らぬ男子学生が一人。褐色肌に関西弁…親しみやすそうな雰囲気を出している。男子学生は私を見るなり、見定めるように全身を何度も往復させてじろじろ見つめてきた。


「えーっと…工藤くん、彼は?」
「俺は服部平次、工藤とはちっこいころからの知り合いや。よろしゅう。」
「おい、それは…!」
「あんたのことは待ってる間に工藤に聞いたで、水野さん。」


差し出された右手に、よろしくと言ってこちらも右手を差し出して握手を交わす。ぶんぶんと音が付きそうな勢いで腕を振られると、歯を見せて笑った。一方で工藤は顔を片手で押さえてうなだれている。別に小さいころからの知り合いなんて仲良さそうでいいじゃないか。幼馴染と言える存在がいなかった私にとってはうらやましい。


「ま、ここで話すよりゆっくり食べながら話そうや。」
「そうだね。工藤くん、お店はもう決めたの?」
「はい、僕ら学生なんでチェーン店ですけど…いいですか?」
「いいよ、そこにしよう。」


向かった先はいわゆるファミレス。平日の夜はさすがに客も少なく、ゆっくりできそうだ。待たされることなく席に通されると、ウェイトレスは水と手拭きを置いて、ごゆっくりどうぞと言うと席を離れていった。私を対面にして、高校生たちは仲良く並んで座っている。工藤はメニューを取り出すと、私に見えやすいよう開いておいてくれた。定番のハンバーグにしようか、はたまたパスタにしようか…。久々のファミレスはメニューの多さにページを開いては目移りを繰り返している。あまりにも食い入るように見ていたのだろう私に対し、二人は提案をしてくる。


「そんな真剣に悩まんでも、シェアして食べればええやん。」
「そうですよ。見てた時間から推測するにハンバーグとパスタってところか…。案外子供っぽいとこありますね。」
「嬉しい申し出だけど工藤くん怒るよ?」


結局ハンバーグ、パスタ、ピザを頼んで待つことになった。ここから怒涛の高校生探偵たちによる質問タイムが始まる。服部だけでなく、前回降谷に引き離されたからか工藤もハイペースで話しかけてくる。工藤はわたしと降谷との関係がどうしても気になるようで、出会いからつい最近までのことを事細かに聞いてきた。話せる範囲で受け答えしていると、服部の目の色が変わる。


「は!?じゃあ水野さん家に頻繁に食べに来てるんか!?」
「頻繁っていうのは違うかな、週に1、2回だよ。」


訂正しておいたが、二人は明らかに引き気味で口の端はひくひくと動いている。勘違いしてほしくないのは、あくまでも健全な関係だということ。健全だからこそ、部屋に上がることを許している。…ちょっとだけ食材につられているところはあるけれど。


「俺にとっては週1以上は十分多いっていうんやけどな…。」
「あの人狙った獲物は逃さなそうだからなぁ…。」


「間違ってはいないかな、ずいぶんと楽しそうな会話をしてますねぇ。ぜひ混ぜてもらいたいところだ。」


突然聞こえた第三者の声に、三人そろって声の主のほうにゆっくり顔を向けていく。声で察してはいたが、にこにこと笑みを浮かべた降谷がそこに立っていた。二人は明らかにしまったという表情を浮かべ、降谷の動向を見守っている。隣失礼しますと言うと、私の許可を待つことなく降谷は隣に腰かけてきた。


「あれ?さっきまで楽しそうに話してたじゃないですか。話さないんです?」


あなたの登場のせいで話せないんですよ、なんて口が裂けても言えない。高校生たちは先ほどまで達者だった口を噤んで、借りてきた猫状態だ。目配せしながらこの場の打開を押し付け合っている。私はというと、自分のこともあるとはいえ降谷の情報を話してしまったことを怒られるかもしれないと手汗で湿ってきた。さっきまで…ん?さっきまで?


「一体いつからここに…?」
「質問攻めしてたあたりですかねぇ。」
「最初からやないか!」
「高校生二人に連れ込まれてくところを見ていたらつい。」
「…過保護は嫌われますよ。」


そのうちに届いた料理を四人で分けてから美味しくいただいた。三人前の料理は足りず、結果として追加注文して降谷のポケットマネーからのお支払いとなった。

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