Rei Furuya&Kenji Hagiwara 「連れまわして悪いね。」 結局工藤邸を出た後は車窓から流れる景色を楽しんでいる。つまるところ、ドライブだ。工藤邸を出た直後は降谷の機嫌が悪く会話もなかった。横顔を伺いつつ心配していたが、気分転換できたようで一安心。 「楽しいから気にしてないよ。これからどうする?」 「軽く何か食べにいきましょうか。結局何も食べれてないですし。」 「そうだね、ちょっとお腹空いたかも。わたしこの辺り詳しくないから調べようか?」 「いや、このあたりなら美味しいパン屋があってね。ああ、ほらあの対向車線側の。」 信号で止まると、対向車線側にあったのはかわいらしい外装のパン屋だった。興味をひかれた私は二つ返事をする。すると降谷はUターンをすべくウインカーを出す。降谷さん、運転うまいな。喫茶店に行くときもそうだったが、自動車学校で習ったかのような安全運転で乗っていてリラックスできる。ブレーキもやさしく体が前に倒れないようにしてくれるし、ドライブテクニックにきゅんとくる女性の意見がやっとわかった。駐車場に停めて外に出ると、パン屋のドアを開けた。パンの香りに食欲が刺激される。並ぶ色とりどりのパンを見ていると、じっくり選んでくださいねと声をかけられた。 「降谷さんおすすめどれ?」 「俺のおすすめはクリームパンですよ。カスタードがとてもおいしいです。」 「…クリームパンって。」 「…だめですか?」 「いえ、あまりにかわいらしいチョイスだったのでつい。」 かわいいと言われるのは心外ですと口を尖らせる降谷は、自分が可愛らしいしぐさをしていることに気づいていない。そこにまた笑ってしまった。それを見た降谷が早く選びますよとせかすのでトレーにクリームパンを運んだ。 「降谷さんはどれにするの?」 「…俺も同じのでお願いします。」 はーいと返事をしながらトレーにクリームパン二つを並べた。それだけでいいかと聞かれたので、これ以上食べると夕食が美味しく食べられなくなるといってレジへ向かった。ドリンクとしてアイスティーを二人とも注文をすると、降谷に払われてしまう前にお金をだす。きっと出し遅れればポアロの時のように降谷が払ってしまうだろうとの先読みだ。案の定払うというので、今日のガソリン代と言って払わせてもらった。店員さんに淹れてもらったアイスティーと温めてもらったパンを持って、カフェスペースへと移る。お昼時から少し外れているせいか、店内には1人だけしか座ってなかった。 「どこにします?」 ねぇ降谷さん。そういった瞬間、店内にいた男性は私たちのほうを向いた。男性は、私と降谷を何度か繰り返すように見ると口を開く。 「あーもしかして松田が言ってた子?気になってたんだよ、松田も隠そうとするから。」 「萩原…。」 萩原と呼ばれた男性は降谷の知り合いかつ松田の知り合いのようだ。黒髪のさわやか系。降谷と松田と並んでも劣らない美形。ひらひらと片手を振るので私も振り返す。 「そんなに怒るなよ、ここにいるのはたまたまだって。」 「それはわかってるけど…、なんでこう短期間で出会うんだ…。」 降谷は萩原の隣の席にトレーを置くと、私を座るように促した。萩原の隣に並ぶ形になると、壁際に並んだソファ席だったので真横に詰めてきた。距離感が近い人だな。本日二回目の自己紹介を終えると、七海ちゃんね、と松田と同じ呼び方をしてきた。どうしてこうもこの人たちは初対面の人間を名前で呼ぶのだろうか。 「俺のことは研二さんでいいよ。」 「萩原さん、ですね。」 笑顔で断ると、かたいなぁと笑う萩原さんはどことなくチャラい。その様子を面白くなさそうに降谷はクリームパンを食べながら見ていた。せっかく温めてもらったクリームパンを温かいうちに食べないと勿体ない。そう思いクリームパンをほおばる。クリームは端からこぼれんばかりの量だ。顔を汚さないように格闘しながら食べていると、二人がわたしに注目してくる。なんですかと問えば、なんでもないよと言ってくる。その割には目線をはずさないし、時折二人は目で会話しているようにも見える。 「降谷、お前狙ったな。」 「なんのことだか。」 こぼれるクリームに負けた私の口の端に着いたものを、わざわざ席を立ってまで指で拭いに来る降谷は今日一番いい顔をしていたと思う。 [しおり/戻る] |