Rei Furuya



7:00 a.m.
日が昇り、カーテンから光が差し込む頃、着信音が部屋に響いた。仕事柄物音には敏感なので、私用の携帯は夜間だけマナーモードにしていたはずだった。はずだった、のだが。響いた着信音は私用のものだ。今朝3時に帰宅した私は倒れこむようにソファで目を閉じたため、切り替えを忘れていたのだろう。もう少し寝ていたかったというのに、こんな朝早くに一体誰が送ってくるのか。確認だけして寝ようと片目で画面を見つめ、メール画面を開く。差出人は…江戸川コナン。


"七海さん、今日ゼロの兄ちゃんとデートなんだって?よかったね"


…なんのことだ?降谷とどこかへ出かける約束をした覚えはないし、しかもデートなんて。私と降谷は同僚で仲はいいかもしれないが、友達と称されるものだ。眠たい頭を必死に動かしてみるがやはり記憶にない。コナンくんは何かを知っているのだろうし、返事をしてみる。もし、降谷が仕事中に話しかけてきて生返事をしたなんて事実があったのだとしたら私が悪い。返事は当たり障りのないものにしよう。


"それ、降谷から聞いたの?"
"昨日ポアロで嬉しそうに話してきたよ。10時に米花駅で待ち合わせなんだよね!"


コナンくんからの返事が早くて助かる…が。やっぱりこんな約束覚えがない。コナンくんがわたしにわざわざ嘘をつく理由もない。行くだけ行ってみようか。もし待ち合わせ場所に降谷がいなくても、今日は非番だから買い物をして帰ることが出来る。行くことに決めて、またポアロで詳しいこと話すねと簡単な返事をしておく。アラームを8時にセットして再び目を閉じた。


8:00 a.m.
アラームが響いて目が覚める。着替えようとクローゼットを開く。いつもはナチュラルメイクにポニーテール、スーツだが、今日は降谷の隣を私服で歩くのだ。気合を入れて、蘭と園子とショッピングに行ったときに買ったワンピースを手に取る。髪を巻き、普段より少しだけ濃い化粧をした。支度を終えてコーヒーを飲みながら、コナンとやり取りをしたときには考えていなかったが、降谷に一度連絡を入れたほうがいいのではないかと考えつく。しかしメール画面を開いただけで、時間を見て慌てて家から飛び出した。以前、待ち合わせをしたときに遅刻をしたら、降谷にこってり説教をされる羽目になったのを思い出したからだ。ヒールと格闘しながら駅まで走り、電車に乗り込むと日曜だというのに電車は満員だった。携帯を取り出す余裕もなく電車に揺られればあっという間に米花駅。結局事前に降谷に連絡を取ることはかなわなかった。


9:55 a.m.
米花駅前に着くと、見慣れた金髪が壁に寄りかかって立っている。美形は何をやっても絵になるからむかつく。走って近づくと、降谷は私に気づいたのか片手を胸まであげた。


「おはよう、そんなに気合入れてくるとは思わなかったよ。」
「おはよう、誰かさんがデートとかいうから。」
「その格好で来たってことはまぁそういうことだよな。似合ってるよ、可愛い。」


さらりと言われて目をそらす。警察学校からの付き合いだが、可愛いなんてストレートに言われたのは初めてのことだった。


「今から東都水族館に行って、昼ご飯を食べて…そのあとはノープランだけどいいか?」


いいよと返事を返すと、降谷は私の手を取って歩き出す。慌てる私に対して降谷は今日は混んでるからという。混んでるから、そうだよね。混んでるならはぐれないように手をつながないといけないと、自分の中で理由をつけて握り返す。



「いや、でもこんなにうまくいくとは…。コナンくんには感謝しないといけないな。」



降谷がつぶやいていたのを私は知ることはなかった。


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