Jimpei Matsuda



部屋でテレビドラマをBGMに、買ったばかりのファッション誌をめくる。あれも欲しいこれも欲しい。あいつの好きそうな、だぼっとしたニットを買って久しぶりにこっちから誘惑しちゃおうかな、なんて。まぁ誘惑なんてしなくても、あいつの場合…いや、これ以上はやめておこう。こんなことを考えていたら、いつもより帰りが遅い同棲相手が少しだけ心配になってきた。今までも帰りが遅くなることはあったが、胸のざわつきには慣れない。慣れることなどないだろう。警察官という職務に就いている以上、毎日無事に帰ってこられるとは限らないからだ。気を紛らわせるために、チャンネルを切り替えた。


"今日は双子座流星群。東都タワーはカップルでいっぱいです!"


テレビ中継のアナウンサーが人ごみに押されながらリポートしているのを、頬杖を突きながら見る。今日は新月で、月明かりに邪魔されることがないため星が見やすいらしい。思えば流星群を見たのは小学生の時にキャンプに行った時が最後だ。確かその時、結婚できますようにってお願いしたんだっけ。懐かしい思い出に浸りながら冷蔵庫から取り出した酎ハイを開けた。折角だから星を見ながら酒を飲もうと窓を開けてベランダに出ようとすると、その寒さに秒で窓を閉めた。寒すぎる、上着を羽織らないと風邪をひいてしまう。缶を置いてから、クローゼットにかかっているあいつのジャケットを勝手に拝借して肩にかけた。煙草の香りはあんまり好きじゃないけれど、今だけはこの香りがちょっと恋しい。


「うぅー…さむ。」


再びベランダに出て手すりに両肘をのせる。月のない真っ暗な空に点々と散らばる星々は、肉眼でも確認しやすい。あとは流れ星を待つだけだ。確か1時間50個ほど流れるとリポーターは言っていたはず。都会の空の下だと見える数はその半分以下ぐらいだろうけれど。見上げても流れない星を酒を飲みながら待つ。


「今日は待たされてばかりだ…。」
「待たせて悪かったな。」
「ひっ!」


突然背後から投げられた声に驚いて缶を落としそうになる。色気ねぇ声だな、とそのまま抱きしめてきた松田はずいぶんとお疲れの様子だった。煙草のにおいがほとんどついてない今日のスーツは、吸う暇もなかったことを物語っている。


「おかえりなさい。」
「ただいま。こんなさみぃのにベランダに出て何してたんだよ。」
「今日は流星群なんだって。帰ってこない陣平を早く帰してくださいってお願いしようと思ってたところ。」
「あーその理由は嘘だろ。どうせ服ほしいとかじゃねぇの。」
「…ま、陣平は願わなくても帰ってくるからね。」


抱きしめられてた腕をほどいて正面から抱きしめた。胸に耳を寄せると聞こえてくる心音に、今日も無事に帰ってきたことを改めて実感した。しばらく幸せを堪能していると、聞こえてきたくしゃみ。私は上着を着ているが、松田は一度帰ってきてコートを脱いだからスーツ姿だ。これでは冷えてしまう。


「中に戻ろうか。陣平風邪ひいちゃう。」
「もう風邪ひいた。七海があっためてくれないと治らないな。」
「はいはい、正常ですねー。」


松田から離れて窓を開けた。中から温かい空気が漏れてくる。松田の手を引っ張って入れようとすると、触れた手はとても冷たい。中に入ったら温めてあげよう。二人とも中に入ってから窓の施錠をしてカーテンを閉める。先に入った松田がジャケットを脱いだところに今度は私が後ろから抱き着いた。松田は気にせずジャケットをハンガーにかけて仕舞う。そしてタンスからスウェットを取り出した。


「着替えたいんだけど?」


松田は私の腕をほどきながら言った。シャツのボタンを開けてTシャツ1枚になると、その場で脱いで着替えようとする。


「…着替えはお風呂の後でいいよ。」
「なに、一緒に入ってくれんの?」
「いいよ。」
「は!?」


自分でいったくせに、私が承諾すると慌てるところは同棲してからずっとだ。からかいがいがある。


「陣平のそういうとこ好きだよ。」
「…俺は嫌い。」
「ね、早くお風呂いこ。私もまだだから。今日はずっとくっついてようね。」
「…おう。」


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