Rei Furuya



※生理のお話です


朝目が覚めると七海は背を向けて寝ていた。珍しい、いつもは無防備な寝顔を晒しているのに。背を向けられていることにちょっとだけ不機嫌になるのを抑えつつ、腕を回して寄せると、その顔は険しかった。眉を顰めている。それになんだか顔色が悪い。寝ているところを起こすのは可哀そうだが肩を揺らした。


「七海さん、気分がすぐれませんか?」
「んー…。」


短く唸ると薄く目を開ける。その瞼におはようのキスを落とすと、頬にすり寄ってくるはずの七海はやっぱりどこかおかしい。しばらくすると完全に覚醒したのかもぞもぞと動き出して何かに気づくとさらに顔色が悪くなった。


「透さん…ごめんなさい。」
「どうしました?まずは理由を話してください。そうしないと僕もどうしたらいいのかわかりませんから。」


安心をさせるために七海の背中に腕を回して撫でると確かな違和感があった。手には湿り気、寝汗でもかいたかと思いシーツに触れるとシーツも湿っている。持ち前の推理力から導き出された答えは一つ。


「…七海さん、シャワーを浴びてきてください。このままシーツを被っていって。着替えは用意できますけど…買い置きはありますか?」
「バッグの中のポーチに入ってます、本当に、ごめんなさい…。」
「気にしないで、それよりも顔色の悪いあなたのほうが心配です。しっかり温まってきてくださいね。」
「はい…。」


とりあえず布団をめくると布団は赤い海が広がっていた。ここで僕が顔を顰めれば七海は心配するだろう、なるべく冷静にシーツを七海に被せて手を伸ばすとその手を取ってくれたので、引いて上体を起こした。1人で行けるか聞いて頷いたのを確認してから、箪笥から替えを取り出して渡した。何度も謝る七海の額にキスを落として浴室に押し込んでから、ベッドの処理にかかる。


「うーん、マットレスはタオルで叩いて染みを薄くしましょうか。布団は水につけおきかな。」


最悪落ちなくても買い替えればいい。今の自分の給料なら痛くもない。それに…、これを期にダブルベッドに買い替えようか。考えを巡らせながら、洗面台に水を張り、ふとんのカバーを浸した。そして水にぬらしたタオルでマットレスを叩くとわずかながら染みが取れてきた。大まかな処理が出来た後、七海がいつシャワーを上がってきてもいいように羽織れるものを用意し、お湯を沸かす。やかんから湯気が立ち込めてくると、着替えた七海がそろそろと歩いてきた。


「顔色、よくなりましたね。痛みはないですか?」
「大丈夫です、温めたら楽になりました。」
「それならよかった。体を冷やしてはいけないのでカーティガン、僕のですが使ってください。」
「ありがとうございます。」


そして片付けを手伝うという七海を制し、椅子に座らせると温かいスープを差し出した。そういえば朝ごはんがまだだったな。食欲があるか聞けば、眉を下げておなかがすきましたというのでハムサンドづくりに取り掛かる。不謹慎だが、ちょっとだけ嬉しさがあった。七海がこんなに素直に甘えてくることはそうない。謙虚なところが日本人らしくて素敵だが、恋人の立場としてはもっと頼られたかったのだ。自分のよりも一枚多めに挟んだハムサンドを持ってテーブルに置いて、向かい合うように座った。


「さぁ召し上がれ。」
「いただきます。何から何までありがとうございます。」
「いいえ、頼ってもらえるのはとても嬉しいですよ。それに一日お世話をしていたらずっとくっついていられますし。」


赤面する七海を見て、幸せをかみしめるのだ。


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