Jimpei Matsuda



ぬくもりに包まれながら、目を擦る。腹部には重みがあり、耳には吐息がかかってくすぐったい。身を寄せるとふわふわのくせ毛が頬にあたり、もどかしい。ああ、幸せだ。隣で眠る松田は明け方に帰ってきて私の布団に入ったのだろう。ズボンは変えたようだがシャツのままだ。いつもなら皴になると怒るところだが、疲れていたのだろうし綺麗に洗濯してアイロンをかけてあげよう。お疲れ様とつぶやいて頭を撫でると、んん…と声を漏らした後に薄目を明ける。


「おかえりなさい。」
「…ただいま、なんだもう起きたのか。」
「うん、寝心地がよかったからね。陣平はまだ寝てていいよ。」
「お前ももうちょっと寝てろよ…。」


眠そうな松田が回した腕をさらに締めてくるから、先ほどよりも密着した状態になった。このまま二度寝してしまいたい気持ちはやまやまだが、今日は休日出勤だ。二度寝をしてしまえば確実に仕事には遅れてしまう。名残惜しいが松田の腕をぽんぽんと叩き、話すように頼めば、逆にさらに引き寄せてきた。


「こら、だめだって。」
「あと5分だけ。」
「…ほんとに5分だけだよ。」


寝起きの素直な松田は可愛いくて、つい甘やかしてしまいたくなってしまう。頬に手を滑らせて、時々つまんだりしても何も言わないということは遊ぶ許可は出ているようだ。十分に満足して滑らせていた手を放そうとすると、手が唇を掠めた。その瞬間、松田の舌がわたしの指先を舐める。ちょっと、と制止する声を上げれば、散々遊んだんだから次はこっちの番だと見つめてきた。


「これから仕事だからそういうことはまた夜に…。」
「別に指舐めただけだろ、何想像したんだ?」
「…陣平のばーか、今日はすぐ寝てやるんだから。」
「拗ねんなよ。」


口元に笑みをこぼした松田は、回していた腕を離して私の頭を撫でると、5分経ったぜと告げた。5分なんてあっという間で、名残惜しいが体を起こした。ベッドのサイドテーブルにはクリスマスに松田からもらったネックレスが置いてあり、普段通りつけようと手を伸ばしたが途中で手が止まった。

ネックレスに見覚えのないリングが通っている。昨夜寝る前に外した時にはなかった。もしかして、明け方に帰ってきた松田が。振り向くと松田は反対のほうを向いていた。ねぇ、と呼ぶが返事はない。こんな短時間で寝てしまうとは思えないが、まだ疲れているのかもしれないのでこれ以上は声をかけず静かにネックレスを首にかける。近くの鏡まで歩いて覗くと、首元でシルバーのリングがゆらゆら揺れていた。この高さだとシャツからギリギリ見える範囲だ。帰ってから松田に聞くとしよう。着替えるため、寝室から出ようとドアのぶに手をかけた。


「…高い首輪だから大事にしろよ。」


背後から聞こえた声は普段よりも低く、くぐもっている。


「一生大事にするね。」
「いいや、もっといいやつ渡すから、それまでだ。」


その時を楽しみに待とう。リングにキスを落として部屋を出た。


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