イソトマの花が咲いた(からべりーさん/颯風さん/朱織さん/みおさん)


「颯風、ちょっと付き合って」
そう言われて、二人で図書室に篭って早数十分。颯風のしていることといえばただからべりーの質問に答えているだけ。なにをしているかは気になるけど、これが彼の役に立つならどんなことでも力を貸すのだから聞いたところで差異はないだろう。ただ、好奇心は沸くもので。なにかを呟いては消すからべりーのノートの内容を見る。細かい文字でつらつらと知り合いたちの名前が刻まれている。他の人間たちにもしたのだろうか、と少し心がざわつく。
(僕は他の人間と一緒なの…)
唇を噛んでその感情を凌ぐ。ダメだ、迷惑をかけてしまっては他の人間と一緒になってしまう、嫌われてしまう、必要とされなくなってしまう。
「あ…」
「颯風」
吐き気を催し顔を伏せようとするとからべりーによって顎を持ち上げられた。
「なに隠してんだよ」
「う…」
真紅の瞳に打ち抜かれて言葉が詰まる。吐き気と、言葉が出ない苦しみがただひたすら苦悶の表情として現れる。
「俺に隠し事はすんなよ」
チッ、舌打ちが聞こえて肩が跳ねる。怒らせてる、必要とされなくなってしまう、声を出さなきゃ、言わなきゃと必死に喉を奮わせる。
「あ…な、なにやってるの、かな…って、他の人にも、おなじこと」
涙が溢れてくる、ダメだ頭が混乱してしまう。あ、う、と同じ音を何度も発しながら、文章を形成していく。
「おな、じことやった、のかな…って、僕は他の人と一緒なのか、な…」
言葉が紡ぎ終わると目元をからべりーの指が撫でて、涙を拭い去った。
「お前には説明してなかったな、あー…」
めんどくさそうに頭を掻く姿に胸の中を不安が覆いつくす、自分は余計なことをしてしまったのか、と。だが、からべりーはそのノートを颯風側に向けて、ページを2,3戻し始めた。
「教授からの頼みだ。複数指定生徒からアンケートをとってレポートをするように、だと」
はっと嗤って、颯風が読み終わるのと大体同じぐらいにページを捲ってくれる。そこにはからべりーの文字じゃない、つまり教授の文字で“颯風、みお、朱織、絆創膏、あおたetc...”複数の友人?知り合い?まあ、つるんでいる人間の名前が書かれていた。
「あのジジイ、それで前期分の単位を半分くれてやるとか抜かしやがってな」
その顔には半分とはけち臭いと書かれており、その顔には今回ばかりは自分の面倒ごとに巻き込んでいる、と書かれており。
「そうなんだ…」
安心してつめていた息を吐き出すと、からべりーは次の設問を言い始めるのだ。涙を自分の袖で拭って答える。
そうして、2時間、全ての設問を答え、纏め終わった後にそれとなく問いかけてみる。
「なんで、人指定だったんだろうね…」
「あ?なんか“優秀な個体が”とか言っていたが、あの教授のいうことなんかわからねーよ、ただでさえ、普段からなんで教授やってんのかわかんねーぐらい、授業をしたくねーって悲鳴が研究室から聞こえるんだしよ」
「へえ」
そうこれは、研究棟の七不思議、もとい騒音被害。からべりーの入っている授業の先生のうちの一人が猛烈に人前に出たくない人で、授業をやりたくない、できれば働きたくない、なんていいながらも頭はよく、研究成果も優秀。難点は他には少々不思議な人だというところだ。颯風はその授業はとっていないのだが、3年で機会があるのなら受けてみたい気もする。
「あーダリ」
「お疲れ様、帰ったらご飯、僕が作るよ」
弱弱しく微笑めば、からべりーが不器用に、居心地悪そうにおう、と頷いてくれるのだ。


「わー、青春だねえ、甘酸っぱいねー」
そして、そんな逢瀬を見つめる影二つ。
「そう?僕にはサンプル同士が発情しているようにしか見えないけど」
そんなみおの言葉には溜息をつかざるをえない。不完全なものが不完全なりにお互いを補おうとしているその姿勢は、これからの人類を発展させるものだというのに。そしてそれをそのまま伝えれば真顔のみおが踵を返して呟くのだ。
「ただでさえ人類なんて虫と大差ないのに、発展なんてするものか」
朱織は頬をぷくーっと膨らませて、みおのあとを追っかける。
「するよー将来的にね、人類は腕も増えてね、頭も増えて並列で物を考えられるようになるの!」
今の人間は不完全すぎる、その一つの頭では頂戴できる快楽も、知識も少なさ過ぎる。その上、脳みそは9割も使われてない領域ときた、無駄が多すぎる。だから、人類はもっと進化するべきなのだ。その形として二人の人間が一つになろうとする行為は望ましい。
「そして、思考回路は多様化してより合理的に物を考え、全能と化すんだよ!」
そう腕を広げて爛々とみおに微笑みかければ溜息をつかれた。
「だから僕は人を改造したいんじゃなくて…」
説明しようとした言葉をみおは吐き捨てて溜息に変えた。どうしたのだろうか、と顔を覗き込もうとするもすたすたと歩いていかれてしまう。
「あ、待ってよ、みおくーん」
まあ、前途多難ではあるが、少しずつオトモダチになっていけばいいのだ。だってみおくんは、唯一自分の考えを受け止めてくれるだろうから。









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -