貴方との未来を突貫工事(からべりー/颯風)

ケーキを食べて、アルコール度の低いワインをあけて。らしくなく、サプライズでプレゼントをあげて。そんな普通の誕生日会が終わりを告げて。
「はー、楽しかったね、べりくん」
ネコと一緒にだらしなく絨毯に寝そべる颯風を軽く足で退かして、皿を片付ける。パーティーは片付けるまではパーティーであり、それまで颯風が主役なのには変わりはない。そんなことを思いながら、シンクの前に立って、颯風の言葉に素っ気無く頷きながら、颯風の声を聞く。
「楽しかった、すっごく、すっごく」
寂しそうに笑う颯風に心の中を不快な風が撫でる。かった、あまり過去形は好きではない。それがもう過去のことのように、それがもう終わったことだという風に感じられて。未来を塞き止めているような気がしてしまうのだ。そんな不快な風は口の中に甘い唾液を溜めた。それを飲み下せば不快な感触が胃に堕ちた。
「また、来年もできるといいな」
まるで来年がないかのような言い方。颯風の性格を考えれば仕方ないのかもしれないけれど、それでもからべりー的には納得いかないものがある。だけど、それをどう伝えていいものか悩んでしまうのだ。
“来年もやるんだろ”
“お前、俺から離れられる気でいるのかよ”
“それなら”
そこまで思考の駒を動かして、思考を打ち切る。せめて、誕生日は幸せな気持ちでその体を満たして欲しいのだ。だが、悲観的な颯風はきっとこのまま1人で落ち込みのループに入ってしまう。不器用なからべりーはあまり言葉で思いを伝えるのが上手くはない。上手くはないから。
「颯風」
食器をシンクに置く。名前を呼ばれた颯風が今にも泣きそうな顔で振り向くものだから、ついつい足早になって抱きしめる。言葉で伝えられないのなら、この体で伝えるしかない。そもそもカードも少ない人種だ、それしかない。
「お前がジジイになっても、ちゃんと祝ってやるから安心しろ」
死ぬまで、そんな表現もいいかもしれない。だが、今日ばかりは未来を閉ざす言葉ではなく未来をこじ開ける言葉でもいいだろう。その言い回しに気付いたのか気付いてないのか、唇をぎゅうっと閉じて、だけど、目は潤ませた颯風がからべりーのことを見上げる。伝えたいことがあるのに、伝える手段を持たないというようなその仕草に自分に似たものを感じながらことさら大事に思え、腕をぎゅうっと回せば、小さな声で呟くのが聞こえる。
「ありがと」
「僕にもべりくんのこと祝わせてね」
その言葉を発した後、照れたように体を丸める颯風に苦笑を漏らしながら頭をぽんぽんと撫でる。なにを当たり前のことをと思いながら、不快な甘い唾液をハチミツや綿飴で包んだように優しく、金平糖で彩ったように綺麗な形に仕立て上げる。
「当たり前」
綺麗に仕立て上げた言葉は颯風に渡り、颯風を笑わせた。颯風が何を思っているか、それが完璧に分かるわけではない。だが。
「だから、それまで俺の隣で馬鹿みてーに笑ってればいいんだよ」
そう、颯風がいつまでも隣にいればいいのだ。







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