変われるものなら変わってくれ(絆創膏さん/朱織さん)


学校の階段。七つの不思議全てを目にすると死ぬといわれている御伽噺。普通あっても高校までの謂れであるが、何故かこの大学にも現存していた。だが、この大学の七不思議は見ても死ぬことなく、どちらかというと見るとラッキーなんて不思議なレアリティを保っている。これを難易度が高い順に並べたものがこの大学の七不思議である。

一つ、身長XXcmの教授が推定80センチぐらいの二頭身になっている。
二つ、着ぐるみの教授から弾丸の飛ぶ速度と同等で飛ぶチョークを受ける。
三つ、某教授に「好き」と伝え、1ヶ月生き延びる。
四つ、某教授の実験液を浴びての生還。
五つ、教授室に出入りするなぞの少年。(座敷童子であるとの説も)
六つ、茶髪の乙女。
七つ、教授室から聞こえる奇声を聞く。

此処で、お分かりだろうか。新入生は見れればラッキーと吹聴されるが前半いくつかが限りなく人の生死が関わっている。どうせはったりだろうと笑い飛ばしたいがもしもを考えると実行できない人間の性。大半の生徒は噂話どおりに盛り上がり忘れて卒業していく。だが、自分にそれが許されないらしい。
「もうお前らが教授やればよくね?俺やめたーい☆」
「旦那、此処に呼びつけて話し聞かせろって言ったの旦那っスよ」
「でー、魂の書き込みについて教授ならどうします?!」
目の前の現状を簡潔に表してみよう。人の魂の書き込み方を学ぼうとする人間。教授室なのにいる高校生。目の前で二頭身になっている教授。自分の頭が可笑しくなったのか疑いたくなる。かすかに見えるルンバの幻影が囁く言葉のみがこの空間の中で正気である証で。愛する彼女のことを思い出さなければやっていられないこの状況。だが、始まりはどうしようもなく自業自得であった。

「あー、絆創膏」
「はい?」
最近呼び止められること自体にちょっとした嫌悪が生じることがある。理由はこの間の一件なのだが、まあ今はそれはどうでもいい。教授に呼び出しを食らうことなんてあったか、なんて記憶を逡巡しながら一つの事案に行き着く。
「お前、出席日数危ういぞ」
「そうですか…」
やっぱりというかやはりというか最近鋸のノリがいいのと彼女が朝まで離してくれず中々大学に来れてなかった。そして、それはちょうどとても大事な時期と被ってしまい、こうして教授に呼び出された、らしい。めんどくさいことになる、なんてうんざりとしながら教授の次の言葉を待つ。
「まあ、いいけど。その分補完必要か?」
当たり前である、むしろ必要ないという学生はいるのだろうか。無言でこくりと頷けば、教授はふむと考えるように顎に手を当てて面白いものを見つけたように口元を歪ませた。
「弟の方も別の件で単位が危ういらしいな」
「そうなんですか」
初耳である。それは兄として多少いうぐらいはしておかないとな、と一人で決心する。ん?そういえば、なんで教授はそんなことを知っているのか、という些細な疑問が思い浮かぶ。次に思考が黄色信号を点滅させた。
「じゃあ、俺はそろそろ…」
黄色信号は逃げろ。最近のモットーである。踵を返そうとすればとても強い握力で肩を掴まれた。
「補完をしてほしくば、弟と俺の研究室まで来い」
そう言葉を残して教授は肩から手を離して去っていった。溜息をつきながら愛する彼女にメールを送る。今日遅くなります。

そんなこんなで弟を教授室に連れて行けば、いきなり絆創膏と朱織の家のリビングの写真が手渡された。
「別に警察に突き出したりはしないが」
そんな口上から始まり、要約するなら思想と方法を簡易に説明しろといわれ素直に絆創膏は答えた。もしかしたら絆創膏はこの時点で帰ってしまうのが正解だったのかもしれない。ちょっとした兄心でこの場にとどまったという判断ミスをした数時間前の自分を罵りたい。彼女が待っているぞ、と。さて、この後の話ではあるが。朱織にバトンが手渡され、朱織の話は中々教授に深いところまで突っ込まれた。
「で、神経は繋がってる、と?」
「はいっ、あっちとこっちをみょーんっとやってですね?!」
絆創膏は神経を接合することは専門外なのでこの時点でかなり暇になっていたが、教授の片腕兼妻を自称する高校生にコーヒーを出されて帰りにくくなってしまう。
「魂の問題はどうするつもりだ?心は?」
「それは後回しでですね〜」
インテリアにそんなもの不要だ、と心の中で悪態をつくが、そろそろ精神的なものに限界が来ている。彼女禁断症状である、この時点で時計を見れば開始から4時間が回っていた。だが、このときもう終わるだろうとも思っていたのだ、重大な判断ミスではあったが。そして、此処からヒートアップし。

「魂というよりソフトをインストールする形もありだとおもうが?」
「そうなると、インストーラーの役割を果たすものを作る必要がありますね〜」
「金があればどうにかなりそうか?」
「時間が掛かるだろうけど、成し遂げてみるつもりですっ」
「え、マジ?金出せば教授もやってくれない?」
「え、教授?!」
「旦那、仕事やめたいって言ってたンすよ〜」
「とった特許でもう生涯暮らしていけるしな、正直俺はもうこの仕事にうんざりしているっ!」
「わあ、お金もちさんなんですね!」

話の途中で収縮する教授が二頭身になり段々樹海で一軒家を建てるなどの話になって、朱織の魂論はヒートアップ。手のつけられない、まさに風呂敷を広げたまんま収拾がついていない。もっというのであればもう誰にも止められない、むしろ、絆創膏の声なんて聞こえないに違いない。

(誰か助けてください…)

げっそりとした絆創膏の深夜二時、補完DE奇怪なオールナイトは続いた。







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