倒 錯わぁる ど

【メビウス一周年】衝動逢
10/10

未来とはどこからどこまでの期間を指す言葉として用いればいいだろうか。僕はいつまでこうして現代を生きて、いつになったら未来を生きる人間になるのだろうか。そういう線引きはどこにも存在していなくて、気づいたら僕が生きている「今」が「過去」になってしまう。時間とはそういうものなのだ。だから、今の幸せが未来永劫続くとは限らない。

「永遠なんてないと思うけど、たまにはそんなバカみたいなこと信じてみてもいいのかなって思うんだ」

僕はそう答えた。目の前には愛する彼がいる。ずっと見てこなかった答えを二人で導き出さなければいけない瞬間が来てしまった。つまり、これはあの時の僕からしてみれば未来なのだろう。未来の僕は過去の僕が望む選択をできるだろうか。それは僕だけの問題ではない。みおくんがどう思うか、だ。僕は差し出された箱に手を伸ばす前にそう言った。

「みおくん、僕たちは向き合わなきゃいけない」
「僕たちが目を背けていたことを」
「僕は完全な人間を作りたい、それは今でも変わらない」
「今まで僕は好きになった人にそういう欲求をぶつけてきた」
「いつそうなるかわからない」
「みおくんだって、いつまた僕が虫に見えるかわからない」
「それでも、それでも僕はそれを受け取っていいの?」

捲し立てる。みおくんには何も言う隙を与えない。否定されるのが怖いだけだって本当はわかっているけれど。みおくんは僕の言葉を黙って聞いていた。僕が最後の一言を言い終わった後も、しばらく黙りこんだ。みおくんは箱をあけて指輪を窓の外に放り投げた。

「は、えっ、ちょ、みおくん…」
「別に、こんな形式みたいなことしなくてもいいんだよ」
「…」
「僕はそういうめんどくさいこと考えたくない。朱織は考えすぎ。」

はー、とみおくんは頭をがしがしと掻いた。でも、答えを出さないと先に進んじゃいけないんだ。ちゃんと、ケリをつけないと、すべて清算しないといけない。僕はそう思って今までずっと生きてきた。みおくんはがっしりと僕の方を掴む。いつもなら何も思わないのに、今日はびくりと肩を震わせてしまう。

「理屈とか、未来とか、どうでもいいよ。朱織は僕のこと嫌い?」
「…きらいになんて、なれ、ないよ、だって、すきだもん」
「じゃあ、先のことなんて気にしないで。僕についてきなよ。」

みおくんは僕の左手の薬指にキスをした。ちゅう、と唇を押し付けて吸い上げる。鬱血した、丸い跡がぽつんと薬指に残った。自分で言うのもなんだけれど白い肌にひとつつけられた赤色は確かに所有印と言っておかしくない。

「まぁ、実はさっきのダミーなんだけど」
「ダミー…??指輪のダミーって一体何…?」
「いざというときのために安めの作っといたから」
「僕みおくんの金銭感覚は本当に理解できないんだけど…」

みおくんはポケットからさっきのものよりもキラキラした指輪を取り出すと赤く痕をつけた指につける。指輪から隠しきれない赤色が覗いていた。それがまた嬉しくなって顔がほころぶ。みおくんは目を細めて笑った。

「…ちゅー、して、いい?」
「いいよ、」

おずおずと聞くとみおくんは余裕そうに頷いた。昔より、そういうことをするのが恥ずかしく思わなくなった。慣れてきたのかもしれない。それでもまだ、最後までいったことはない。女子会をするたびに思ったよりディープな話に達するのがいつもこっぱずかしくなる。いや、確かにそりゃ僕はハジメテじゃないのだから今更そういうぶりっこみたいなことをするつもりは毛頭ないのだけど、身体から始まる関係しか経験してこなかった僕としては脳から恋をするのは初めてなのだ。いつも考えることが仕事みたいな僕だというのに、脳で恋をしたことがないだなんて笑ってしまうが、冗談じゃない。唇が荒れてないことを確認して、僕はみおくんの手をきゅ、と握るとみおくんは目をつぶる。長い睫を眺めてから僕はみおくんにキスをした。


     

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -