倒 錯わぁる ど

・ホール・イン・ワン@
10/10

誰も愛せなかった。綺麗だと思えなかった。

シンメトリーな人間は僕から見れば歪なゴミのようで、吐き気がした。
まだ物心がつく前にテレビで見た異形の人間をモチーフにした美術品を見て気づいたのはアシンメトリーなものに異様な魅力を感じるということ。この瞬間きっと僕は普通から逸脱したんだろう。鳥肌がたった、頭のてっぺんから足のつま先まで稲妻が走ったような衝撃を生まれて初めて感じたのだ。これこそ僕の理想だと、追い求めるべきものだと思った。

僕は与えられた人形やシンメトリーの形をしたものはすべて何かを欠けさせた。片腕をむしりとった関節人形はばきりと音をたて、ぬいぐるみは綿を溢れさせる。関節人形とぬいぐるみの片腕を交換して合わせてみればあまりのアンバランスさに目を輝かせたものだ。

母親と父親が早いうちから事故死した時僕は12でにぃちゃんは13だった。
ちょうどにぃちゃんが中学に上がった頃のことである。
にぃちゃんはにぃちゃんで丸い形のものに愛情を注いでいた。両親が掃除のために買った自動ロボットが床を動いているのを見た途端抱え上げて部屋まで持っていき離さなかったほどである。そのまま自動ロボットは掃除をするものではなくなったのだが。そんな異質な兄弟の引き取り手はおらず、親にかかっていた生命保険のお金で兄弟2人過ごすことになった。

その瞬間から僕たちはタガが外れてしまったのだろう。
にぃちゃんは恋人らしき人を家に連れ込んでは家具にした。
にぃちゃん曰く「あんなに可愛いものが床を這って掃除しなきゃいけないならこれが代わりに掃除すればいい」なんて言うし、僕は掃除しなくて済むならなんでもよかったので放っておくことにした。僕はといえばにぃちゃんのように行動に移すことはせず通りすがりの人を見るたびにこの人、片足なければいいのになんて考えるだけ。
にぃちゃんより身長が低くて女顔の僕は力も弱かったし人に手をかけるなんてこと、想像さえできなかった。

僕たちが二人暮らしをはじめて数年、保険金を食いつぶしながら生活してきてにぃちゃんは17に、僕は16になった。その頃にはすでににぃちゃんの部屋は家具だらけになっており、たまにお下がりで要らない部分を切らせてもらった。
ホルマリンに浸けられた腕をぼんやり眺めてうっとりするのが僕の日課になっていた。高校は公立だったので授業料に心配は要らない、それなりに学校生活をのらりくらりと送るつもりでいた。

そこで僕は一目ですとんと、まるでそこに穴があって踏み出して、見事に落とし穴に落ちたというように、僕は恋に落ちた。本当に落ちるように恋をするんだなと確信した。相手は同性で絶対にそういう対象としてみてもらえない。
彼と話して彼を見てそれだけで満足できればそのままでいられたけれど、僕はある時からぽつりと頭の中に生まれた感情を制御できなくなってしまった。

「綺麗な目、一つ無ければいいのに」
「腕、背中についていればいいのに」
「首は反り上がっていればいいのに」
「おかしい」
「今の彼はきっと不完全だ」

僕は違った。
恋に落ちたように、当たり前のように、道を踏み外した。
がらりと足元が崩れる音が聞こえたけれど、気にしてなんていられない。
落ちていいと思った。恋に落ちるように僕は間違いに身を落とすことが必然だった。



     

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