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焦る。どうしてうまくいかないんだろう、どうして、心の中を焦燥が覆う。
どうしてできないんだろう、どうして上手くいかないんだろう。
「うう…」
焦っても、もう、今更どうしようもなくて、でも、上手く行かなくて。
事の発端は1時間前。
いつも、臣ちゃんには伝えきれないくらいの感謝があったから。いつも臣ちゃんには伝えきれないぐらいの好きがあったから。そんな理由とたまたま見ていたテレビが似たようなことを言っていたから。日ごろの感謝を伝えてみてもいいかもしれませんね、なんて。そんな偶然と偶然が重なって。
「舞白!」
頼んで、簡単なちょこれーとを作ることにした。まるも好きなものだから、きっと臣ちゃんも好きなはず。そうして用意してもらった材料。作るのは溶かして固めるだけの簡単なもの。砕いて、溶かして固めるだけ。簡単だろうとたかをくくっていた。
「う……」
最初は意気揚々とやっていたのに。例えば、チョコが上手く砕けなかったり、例えば、チョコが綺麗に溶けなかったり。少し悔しくて。なんとか全部溶けきったものを小さい銀紙のカップに流し込んで固まるのを待つ。そして。
「うう…」
形はできたのかもしれない、よくよく見ればテレビでやっていたものと似ているかもしれない。でも。
(おみちゃんには…)
頭の中がぐるぐるする、きっと臣ちゃんは笑って受け取ってくれるだろうけれど、でも、その好意に甘えるように渡したくなかった。
(もういっかい、つくる…)
上手くできないことに苛立ちながらも、仕切りなおすために冷蔵庫から取り出したものを捨てようとすれば。
「だめっ!」
「え?」
チョコを捨てようとした腕を臣ちゃんが止める。ぷるぷると震えながら臣ちゃんは再びまるを見て。
「捨てちゃ、ダメ」
そうして捨てようとしたチョコを1つ摘んで。
「あっ」
「うん、美味しい」
そう、微笑むのだ。分かっている、それが臣ちゃんの優しさだって。それでも、胸の辺りが暖かくなってしまうのだ。暖かくなって、さっきまで悔しさに泣きそうになっていたのに、今度は。
「おみちゃあああん……」
「ま、まる」
臣ちゃんに抱きついて泣いてしまう、情けないぐらいに臣ちゃんの一言が大きいのだ。臣ちゃんの肩口で涙を流していると、臣ちゃんの手が優しく後頭部を撫でる。
「そういえば、ごしゅじんが
、ふぉんだんしょこらくれたんだ」
「ふぉんだんしょこら…」
それは以前リツが作ってくれたお菓子の名称だった、甘くて美味しくて人を幸せにするお菓子の名称。
「つくえのうえ、おいてきたから、ふたりでたべよ?」
「っ、たべるっ」
そうしていると、捨てようとしていたチョコはさっと臣ちゃんに奪われて、冷蔵庫に仕舞われた。「あとでたべる」なんて臣ちゃんが幸せそうに笑うから、それ以上何もいえなくて。ああ、やっぱり。
(おみちゃんは、まるのだいすき、だ!)
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