ちいさいおおきい


【ちいさいおおきい】

“てをにぎる”
手をにぎった。
"てをひらく”
手を開いた。

自分の手の様子をじっと見つめるマルの頭上にハテナマークがぽぽぽっと現れる。
きょとんとした顔で手を、ぐっぱ。訝しむ顔で手をぐっぱ。
恐る恐る、手をぐっぱ。終いには怖くなって、手をぐっぱ、ぐっぱ、ぐっぱ、と3回繰り返したところで本当に怖くなったのか、昼寝中のオミを置いて座敷を飛び出す。
廊下を走って、走って、涙が床板にぱたたっと落ちて、気付いたらリツの部屋の前。
手をぐっと握って、閉まっている扉をどんどん叩く。

「リツ!リツ!手がぐーになってぱーになる!リツ!手が!ぐって!ぐって!リツ!」

返事がない。いつも居るのに。いつもと違うと更に怖くなる。
ぼたぼた落ちる涙を拭きもせず、まただだっと駆け出した。
次に着いたのは舞白の部屋。
叩くつもりだった扉は開け放たれていた。
その奥、窓から入る光で明るい部屋に、舞白とリツの姿があった。
ふたりとも、泣きじゃくるマルに驚く。

「おやおや、どうしました」
「転んだか?」

優しい言葉を掛けながら突っ立つマルに近づく。
ひっくひっくと肩を震わせて、マルがふたりに訴える。

「……手が……ぐって……っなっ、て、……ぱってぇぇ……」

ふたりは目を見合わせて、なんのことやら、という顔。舞白がすぐにマルを宥め始める。

「マル、一緒にお茶でも飲みましょう。こちらにおいで」

柔らかい髪を撫で、熱い涙を拭い、小さな肩をぽんと叩く。
続いてリツが、舞白の机の上のティーセットを盆ごと取り上げ、舞白に目配せして部屋を出て行く。
マルの大きな目からは拭っても拭っても涙が溢れる。
ひっく、ひっくとしゃくりあげながら、ましろ、てが、ぐってしたらぐってなる。
ぱってしたらぱってなる。なんでだ? こわい。そう話す。
自分でもよくわかっていない不安を一所懸命話すマルに愛しさを感じ、舞白は微笑んでマルを縁側のある明るい座敷に促す。
小さな背中が強張っているのが手から伝わる。
座敷に着く頃合いにリツもお茶の準備万端で現れる。
舞白はリツがティーセットと一緒に持ってきた物を見て、流石、と目配せ。
リツが微笑む。
温かいお茶を飲んでチョコレートをかじり、落ち着いて泣き疲れたマルはぱたりと倒れて眠ってしまった。
そんなマルを挟んで、リツと舞白も横になる。持ってきた肌掛けをふわりと掛けてやり、リツが呟く。

「こどもだなあ」

乱れた髪を整えてやりながら、舞白が花やかに咲う。

「僕にも、こんな時期がありましたよ。自分の指がぞろぞろ動くのが怖くて、よく泣いていました」

間ですやすやと眠る小さなこどももを撫でさするうちに、ふたりにも眠気が来る。
うつら、うつら。畳の良い香りと、ひさしに守られて受ける暖かな陽、いつもの忙しさから別離された緩やかな時間。
それらが舞白とリツを包み込んでーーというところで、ばたばたっと足音。
マルよりずっと大きな大きな体躯、だらしない着物、乱れた髪、何より酒臭。微睡む瞼を擦り擦り、舞白が小さく呟いた。

「にいさん?」

千羽揚が荒い息を整えられずに涙を浮かべながら訴えた。それはそれは切実に。
それはそれは大事のように。

「舞白、手が」

今度は大きなこどもが来た、と舞白とリツが笑った




 

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