今夜も二匹の獣が互いの身体を喰らい合う。

「んっ、や、ばいかも。すっごい興奮する、止まんない。」
「ふん。良い目をするじゃないか。その目でもっと見ろ。俺を、良くしてみせろ。」
この男とこんな関係になってもうどれだけになるだろう。恋愛感情も必要最低限の気遣いもいらないセックスは硝子細工の様に扱わなければならない相手のいる俺にとって非常に良い息抜きとなった。
「あ、んっ!ひゃ、もう無理い!死んじゃう!やらぁ!止めてえ!」
「嘘を!吐くな!」
口内に指を入れられぐちゅぐちゅと掻き回される。指が喉にまで届き思わず吐いてしまった。吐瀉物で汚れたシーツ。普段ならば激怒されるだろう。
「ほんと、こんな薬どこで仕入れてくんの?」
「お前が知る必要は無い。俺が使いたい時にたっぷりくれてやる。」
「合法?非合法?」
「決まっているだろう?」
こんな会話をしたのはいつだっただろうか。ぐしゃぐしゃに乱れたシーツには幾つもの空の薬袋が放置されている。
涎まみれに吐瀉物まみれ、焦点の合っていない目でただひたすらに快楽を貪る姿は獣などではない、正しく人間の姿だろう。人間なんて欲に溺れりゃ獣以下だ。
片方が気絶すればもう片方が引っ叩いて目を覚まさせてまた喰らい合う。それが止んだ時には二人共体も精神も喰いつくされていた。


鉄臭い、不快な臭いで目が覚めた。ぼんやりとする頭では何も考えられない。ごろりと寝返りを打つとそこには真っ赤な血の海が広がっていた。強烈な赤色ですっかり覚まされた目が次に見たのは血塗れの果物ナイフと首筋をざっくり切られた男の死体。開いたままの目の端から涙の筋が残っている。
何が何だかわからない。それが最初に浮かんだ言葉だった。
この男と昨晩した事は覚えている。それが何故今朝になって死んでいる?
心臓が通常の速さを取り戻した頃に出た答えはこの男は自分で死んだ、だった。世界が憎い、死にたいと日頃から漏らす様な男が薬で飛んだ頭で衝動的に行ったのだろう。
「ははっ」
何て事をしてくれる。ふざけるな。そんなに俺が憎かったか。羨ましい、世界から勝手に居なくなった男に少しだけそう思ってしまった。
さて、これからどうしようか。警察に連絡する?だめだ。そんな事をすれば自分だけじゃない、きっと彼等にも影響が出るだろう。そしてこの男が死んだと知ればまあ、彼等は悲しむだろう。男と彼等、天秤にかけるまでもない。

お前の死を悼むのは俺だけで良い。それは決して愛などでは無いけれど。

ぐちゃぐちゃになったシーツにお前の死体、それらを大きなスーツケースに入れて身内が所有している山へと向かった。運転手には旅行だと言ってある。これは旅行なのだ。人を人に還す旅行。

ざくり、ざくりと穴を掘る。男一人が入る穴を掘るのは思った以上に時間がかかる。裾が土まみれになり汗が額から滴る。
ざくり。男は本当に死にたかったのだろうか?
ざくり。どうして誰も気がつかなかった?
ざくり。どうして俺は気づいていたのに、

ぽたり。落ちた雫は汗かそれとも。

出来た穴に男、それにシーツを被せて土で蓋をする。
さようなら、歪んだ私の理解者よ。







「あの、×××を見ませんでしたか?用事があるのに、どこを探しても見つからないんです。」
「いいえ、私は、知りません。」








彼を殺したのは本当に彼だったのか?


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