厄介な奇病に罹ってしまった。異変に気がついたのは少し前の日の朝。ベッドから起き上がるとそこら中に白い鳥の羽が散らばっていた。何事かと思い辺りを見渡すとふと、鏡にうつる自分が目にとまった。
そこには肩から真っ白な羽の生えた自分がうつっていた。
腕が徐々に翼に変わっていく病気。病名がわからないからそう呼ぶしかなかった。進行は早く今では肘の下辺りまで鳥のそれに変わっている。病院に行ったが医師は困った顔をするだけでこの病気を治してはくれなかった。
怖い。自分が自分じゃなくなっていく事が、人間じゃなくなっていく事が怖い。
「怖い。怖い怖い誰か助けて。」


ヤマト君が厄介な奇病に罹ってしまった。異変に気がついたのは少し前の日の朝。朝食の用意をしていると彼の部屋から悲鳴とガシャンと何かが割れる音がした。急いで駆けつけるとそこには割れた鏡、散らばる破片、そして両腕を血塗れにしてうずくまるヤマト君が居た。
「あおちゃん…どうしよう。俺の腕、鳥みたい、羽が生えてる、」
そう言って僕を掴むヤマト君の両腕には何も生えてはいなかった。
自分の腕が翼に変わっていく妄想にとりつかれる、それが彼の罹った病気だった。
病院に行ったが彼は医師の言葉を、翼など無いと言う言葉を頑として受け入れようとはしなかった。その言葉は聞こえていなかった、と言う方が正しいのかもしれない。
「また進んでる。怖いよあおちゃん助けて。」
そう泣く彼を僕には見えない翼ごと抱きしめる事しかできなかった。

「見て、あおちゃん。もう手首まで鳥の羽になってるよ。」
「ぜんぶ変わる前に手を繋いだまま寝てくれる?」
「段々ね、怖くなくなってきたんだ。」
「俺は俺に生まれた事がずっと嫌だった。」
「人間以外の何かになりたかったのかもしれないね。」
「ほら、もうすぐぜんぶかわるよ」




ある朝ヤマト君の部屋に行くとそこには誰もいなかった。窓が空いている。下を覗くと大きな血だまりだけがあった。
ベッドの上には真っ白な鳥の羽が一枚落ちていた。

【さようなら。】

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