どこか隠れられる場所はないか。

ここは遊園地。キラキラとした世界の中で俺は追いかけられていた。
スタートのわからない鬼ごっこ。鬼は大きな刃物を持ったピエロ。ペイントされた酷く愉快な顔をして俺をずっと探している。見つかったらきっと殺されてしまう。

茂みの中に身を潜める。前にあるのは大きなメリーゴーランド。母と小さな男の子の親子が一組乗っていた。母親ははしゃぐ子供を後ろの馬に乗り楽しそうに眺めていた。
そこでふと、自分の足元に何かが落ちている事に気が付いた。
それは一つのネジだった。

ガコン。母親の乗っていた馬が壊れた。床に落ちた母親に上下するポールが突き刺さる。グチャッ、グチャッ、それは何度も母親の体に突き刺さる。
"たすけて"彼女の悲鳴は音にならなかった。子供は振り返らない。後ろに母親がいると信じきって無邪気にはしゃいでいた。きゃはは、きゃはは。子供の笑い声だけがずっと響いていた。

「ママぁ?」
子供が振り返った。俺は逃げた。だって母親が居たはずの席にはいつの間にかピエロが乗っていたから。
あの子供がどうなったのか、俺は知らない。

ベンチの裏で身を潜める。隣のベンチには中学生位の男の子が一人で座っていた。目線の先には色とりどりの風船を配るウサギの着ぐるみ。ぴょんぴょんと跳びはねて、手招きをしている。多くの、男の子と同じ位の歳の子供達が風船を貰いにウサギの所へ走っていった。男の子はただそれを見ていた。たくさんの子供を連れて風船を持ったウサギがどこかへ消えた。
スキップをしながら戻ってきたウサギは風船を持っていなかった。子供達もいない。ウサギの着ぐるみは血で真っ赤に染まっていた。
ウサギが首を外した。中にいたのはピエロの顔。ゆっくりと、ベンチに一人座る子供に近づいてくる。
あの子供がどうなったのか、俺は知らない。

ジェットコースターの近くに来た。隠れられそうな場所は無い。すると大学生位の女が俺の手を引っ張って一緒にジェットコースターに乗せた。俺たちの他にもたくさんのカップルが乗っていた。
頭上に安全ベルト着脱用のサインが二つ光っていた。カチリとベルトを止めるとそれは消えた。
ゆっくりと上昇をはじめたジェットコースター。てっぺん、一番高い所のほんの少し先に何か光るものが見えた。ゆっくりと近づく内にそれが真横に置かれた巨大な刃だとわかった。このまま進めば、落ちた瞬間にギロチンにかけられた様に首が飛ぶだろう。
ピコン。阿鼻叫喚の中ベルトの着脱用サインが光った。
一つだけ。
自分以外のカップルがお互いを想い合い残された短い時間の中で話し合う中俺はすぐに自分のベルトを外して座席の下の空間に潜った。
ジェットコースターが止まり外に出るとそこには俺以外全員が首無しになった座席があった。

ポン。誰かに肩を叩かれた。誰かなんてもうわかっている。俺は捕まったのだ。ゆっくりと振り返るとそこには満面の笑みを浮かべるピエロの顔。ああ、俺は殺されるのか。
構わない、これまでたくさんの人を見殺しに、身代わりに生きてきたのだから。
するとピエロの口がゆっくりと動いた。

コ ウ タ イ


目を覚ますと恋人はもう起きていた様だ。良い匂いのするキッチンへ向かうとそこにはフライパンを持つ大好きな恋人の後ろ姿があった。
ゆっくりと、恋人が振り返る。彼は満面の笑みで朝の挨拶をした。
「おはよう。あおちゃん。」

恋人の首に一瞬だけ繋ぎ目が見えた気がした。









解説
・メリーゴーランドに乗る親子は幼少期のヤマト君と母親。
・外れたネジ=父親
・不完全な状態の家庭で苦しむ母親に気づけなかった罪悪感

・ベンチに座っているのは引きこもりだった頃のヤマト君
・他の子供達と一緒に風船を貰いに行こうとしない=団体の輪から外れている状態だから(引きこもり)
・なぜ子供達は殺されたのか?=小学校の頃のイジメを忘れていない、死ねばいいと心の奥で思っているから

・ジェットコースターで隣に座った女=これまで付き合ってきた恋人達
・別れた理由は全て自己犠牲が足りなかったせいだと思い罪悪感を感じている
・なぜすぐにベルトを外したのか?=上記の理由により自分は薄情者だと思っている為(自分で自分をそう見ている)

・ピエロは誰か?=???
・最後は誰の視点か=あおちゃん。



[ 12/21 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -