"欲しい"

昔から欲しい物は望めば何でも手に入った。美しい着物も豪華なかんざしも新しい使用人も全部。

「御主人様。」

嗚呼、この男を私の物にしたい。

【黒く染めろ】

「その呼び方はやめろと言ったはずよ?」
「いいえ御主人様。私と貴方は主人と従者。私如きが貴方のお名前を呼ぶ事などできません。」
そう言って此方を見る目には欲情などの下心は欠片も見え無い。
(どうして?)
私は美しい。華の様に観る者を魅力しその蜜で男を狂わせてきた。それなのにどうしてこの男は私に靡かない?
「そう。命令に背くのならばお仕置きが必要ね。来なさい。」
すっと足を差し出すと男はなんの抵抗もなくそれを舐めた。
「無様ね。親が見たら泣くわよ?」
そんな言葉にも一切動揺を見せず爪先から指の間まで舌を這わせる。この男の中には何が居る?私という華にも微動だにしない何かがこの男の中にはある。

(壊したい)
壊して、粉々になったそれを貴方の目の前で燃やしてあげる。

ある日の事だった。仕事を終え屋敷から出て行くヤマトの姿を自室の窓からぼんやりと見ていた。屋敷の門が開くと一人の青年が立っていた。その青年は顔を綻ばせヤマトに抱きついていた。
「なあに?アレ。」
ヤマトもまた、見た事も無い様な笑顔で青年を抱きしめていた。彼の口がゆっくりと動く。
「ふうん。あおちゃん、ね。」

見つけた。貴方の強さ。
"こわしてあげる"

今日もヤマトにお仕置きを行っている。その最中、私ははらりと着物を脱いだ。
「ヤマト、私を抱きなさい。」
ヤマトは表情を変えずそれはできません。と言った。
「だったら私のこれ、どうしてくれるの?貴方が厭らしく舐めるせいで私、はしたない事になってしまったわ。ねえ、ヤマト、」

「貴方のせいよ。」

そう耳元で囁くと彼は泣きそうな顔をして私を優しく押し倒した。彼がこの言葉を嫌っている事は知っていた。ずるいかしら?私は欲しい物を手に入れたいだけ。

抱かれている最中なんども彼の耳元で囁いた。
"あおちゃんは悲しむでしょうね"
"愛する人が他の誰かに欲情しているだなんて耐えられないわ"
"それも全部、貴方のせい"

(貴方が私の物じゃないせい)

ヤマトが帰る際、めずらしく門まで見送った。今日も青年は待っていた。

「またね、ヤマト。さようなら、あおちゃん。」
私は笑顔で手を振った。

それからヤマトは命令すれば私を抱く様になった。青年に見せていた愛情など一切無い、其処にあるのは醜い欲情だけ。
(それでいいのよ)
(中身など今はどうでも良い。お前を手に入れて、徐々に染めていけば良い)
(酷く綺麗に輝いていた貴方が黒く染まっていく姿はきっとどんなものよりも私を楽しませてくれるでしょう)

「ねえヤマト、今日はお前にプレゼントがあるの。」
それは赤く燃える椿の焼印。
これを、お前の心臓に押し当てて

「燃やしてあげるわ。」



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