それは息も凍る様な冬の日の事だった。
大学の講義が長引いて帰る時間が随分と遅くなってしまった。外を見るとはらはらと雪が降り始めている。
真っ暗な景色の中に白い雪の粉が舞う姿が幻想的で、寒さも忘れ空を見上げていた。
どれくらい経った時だろうか、急に視界が遮られた。突然の事に僕は驚いて思わず声をあげてしまった。見ると、背の高い優しそうな青年が傘を差し出し困った様な顔でこちらを見ていた。
「驚かせてしまってすみません。」
優しい声だと、思った。
「傘もささずにずっと外で立っているものだから風邪をひいてしまうと思って…、雪を見ていたんですか?」
見られていた事に急に恥ずかしくなった僕は小さな声で返事をした。聞こえただろうか?
「そっか。綺麗ですよね。たくさん積もったらさ、地面に寝っ転がって空を見上げたいなあ。」
自分よりも幾つか歳上に見える人が言うには余りにも子供の様な言葉に思わずふふ、と笑ってしまった。すぐに失礼だったと謝るとその人は気にしてないよと笑った。
「所で君、傘はどうしたの?」
そうだった。持ってきたはずの傘を盗まれてしまったのだ。ありません、と言うとちょっと待ってて。と言って彼はどこかへ走っていってしまった。さっきまで持っていた傘を僕の手に握らせて。
すぐに戻ってきた彼は息を切らし申し訳なさそうに僕に謝った。
「購買に余った傘がないか見に行ったんだけど急な雪だったせいかもう置いてなかったよ、ごめんね。」
わざわざ探しに行ってくれた事に御礼を述べて、傘を持ち主に返して帰ろうとすると待って。と呼び止められた。
「これから雪が強くなるらしいからそのままだと風邪をひいてしまうよ。よかったらこの傘を使って…って言ってもきっと君は遠慮してしまうだろうね。あのさ、よかったら一緒に帰らない?相合傘になっちゃって悪いけど…」
知らない人と一緒に帰るだなんて、普通だったら断っていただろう。けれども彼の言葉とその優しさは何故か素直に受け入れる事ができた。それが何故だかはわからなかったけれど。
帰り道僕たちは色んな話をした。彼の名前はやまと君というらしい。歳は僕よりも幾つか上、たまに僕の通っている大学の購買でアルバイトをしている事、バイクが好きな事、楽しいお友達がたくさんいる事、彼についてたくさん知る事ができた。同じ位僕についても話した。口下手な僕の話をやまと君は楽しそうに聞いてくれた。

気づくと僕の家の玄関の前に着いていた。このまま家に入ってしまったらきっともう彼とは会えないだろう。だけど、どうしたらいいのかもわからない僕は俯いてその場に立ち尽くした。何か、何か言わなきゃ。待って!と、自分でも驚く位に大きな声で帰ろうとする彼を呼び止めた。やまと君もまた、驚いた様にこちらを振り返る。言わなきゃ、ちゃんと言わなきゃ…
「また会えるかな?」
やまと君から発せられたその言葉は僕の言いたかった言葉で。
「呼んでくれて嬉しかった。よかったら俺とお友達になってくれますか?」

僕は何も言えずにただただぶんぶんと頭を振った。やまと君は大きく笑って僕の手にメモ帳を握らせると、
「またね!あおちゃん!」
と手を振って帰っていった。

家に着いて玄関で雪を払おうとすると殆どついていなかった。その意味がわかって顔が熱くなった。
部屋に戻りやまと君からもらったメモ帳を開くとそこには電話番号とメールアドレス、そして彼の名前が書いてあった。
僕はどうしてしまったんだろうか。会ったばかりだというのに頭の中が彼の事でいっぱいだ。神様、この気持ちはなんなのか教えてください。そう思ったけれど、浮かんでくるのはやっぱり彼の顔だった。



うっすら積もった雪道をサクサクと歩く。足取りは軽快だ。
彼、の傘を盗んだ事、購買に傘が無いと嘘を吐いた事を信じてもいない神様に謝った。
ごめんなさい"元"神様。
「俺の神様はもうあの子だけだから。」

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