ヤマトが目を覚ますとそこには壁から床まで全て白で統一された部屋の風景が広がっていた。
「…、は?」
ここはどこだ?昨日は恋人とのデートを楽しんだ後彼を送ってそのまま家に帰ったはずだ。ベッドに入った所までの記憶は確かにある。仮にこれが強盗や誘拐の類いだったとしてもここまで連れてこられる記憶があるはずだ。突然置かれた自分の状況が全く理解できなかった。辺りを見渡そうとも手足、そして首が椅子に拘束されていて身動きがとれない。椅子は固定されているのであろう、あがいてみてもビクともしなかった。
「クソッ」

「ヤマト君?」
背後から聞こえてのはもう何十回と聞いた愛しい人の声。大好きなこの声もこんなわけのわからない所では一番聞きたくはなかった。
「あおちゃん?大丈夫?!どこもケガしてない?!」
「僕は大丈夫。でも、ここどこ?家にいたはずなのに起きたら急にここにいて、怖いよヤマト君…」
「大丈夫。絶対に俺が守るから。」

何があっても君だけは守ってみせるから。

"ジジッ…ジッ……"
部屋に耳障りなノイズ音が響いた。
"おはようございますお二人様!ご機嫌如何でございましょう?わたくしはこのお部屋の支配人をしております、おっとわたくしの名前などどうでもよろしいですね!どうぞ最後までよろしくお願い致します。"

機械を通した様に高く、しかし確かに人の声だとわかる抑揚のある声だった。

「今すぐに俺たちをここから出せ。」
声の主も目的もどうだっていい。すぐにでもこんなわけのわからない状況から恋人を解放してあげたかった。

"せっかちなお人ですね!ちゃんと出してあげますよ。お二人が!協力すれば必ずここから出る事ができます。さあ、貴方達はゲームに挑戦しますか?"

「あおちゃん。」
「大丈夫だよヤマト君。怖いけど、ヤマト君と二人でなら絶対に大丈夫だから。答えは決まってるよ。」
「君は俺が死んでも守るから。おい聞こえてるか?俺たちは、挑戦する。」

"素晴らしい!これぞ愛ですね!涙が出ます。ではそんなお二人にはゲームを始める前の意気込みを語って貰いましょう!"

「あおちゃんは俺が死んでも守る。」
「絶対にヤマト君の力になってみせる。」

カチッと音がしたと同時に拘束が解かれた。自由になった体を見渡すが何ともない。まさかこれが試練だったのか?拘束を解かれ少し安心した気持ちで背後にいる恋人に話しかけた。

が、

「なんでヤマト君の拘束が外れてないの…?」

"それでは、ゲームスタートです"

【White Room】

"素晴らしい愛の言葉が嘘ではないかこのゲームで証明してもらいます。ヤマト様は命がけでアオタ様を守ると、アオタ様はヤマト様の力になると、そう仰いましたよね?わたくしの聞き間違いではございませんね?"

じゃらん、と音がして天井から鎖に繋がれた刃物、鈍器といった凶器が現れた。
"ヤマト様にはアオタ様の為に犠牲を払って頂きます。それを行うのはアオタ様!貴方でございます!きちんと犠牲が払われればこの部屋から出ることができます。お約束致しましょう。"

「犠牲ってなに、そんなのできるわけないよ!ヤマト君を傷つけるなんて僕にはできない。ね、ねえ交代してよ!僕が犠牲になるから!お願い!」
"おや?それでは先程の言葉は嘘だったという事になりますか…悲しい。わたくしは大変悲しいです。嘘つきには罰を与えなければいけませんね。今すぐお二人共ここで死んでもらいましょうか。"

「あの言葉は嘘じゃない。」

「俺はどうなろうともあおちゃんを守る。ゲームを続けてくれ。」
ごめんねあおちゃん。でも気づいてしまったんだ。このゲームの真実に。どうかまだ君は気づかないでいてくれ。

"そうですか。それではルールを説明致します。わたくしが指定する3つの部位をそこにある道具で完全に破壊して下さい。制限時間はそれぞれ10分。但し、それを行うのはアオタ様であること。この事が破られた場合は即座にお二人様共に死んで頂きます。準備はよろしいでしょうか?"

「ヤマト君!なんで、なんでこんな事…」
「あおちゃん。言ったでしょう?必ず君を守るって。大丈夫だから。絶対に大丈夫だから。」

"ゲームを始めます。まず初めは目、目を破壊して下さい。"

「あおちゃん。そこのアイスピック、それで俺の目を潰してくれ。」
「そんなのできるわけない!ヤマト君の目が見えなくなっちゃう!」
彼のキラキラとしたビー玉の様な瞳が大好きだった。いつも優しい光を宿して真っ直ぐに僕を見てくれていた。
「俺の目が見えなくなったってあおちゃんの目があるだろ?あおちゃんが手を引いてくれれば俺はどこにだって行ける。あおちゃんの言葉があれば俺はなんだって感じる事ができる。最期に見るのがあおちゃんの顔で良かった。」
そう言ってヤマト君は目を閉じた。
(自分の目をくり抜いた時はこんなに怖くなかったのに。)
(怖いよ、したくないよ。ヤマト君を傷つける位なら僕が死ぬから、)
「できないよお…」
カランとアイスピックが床に落ちた。
"残り5分です。"
「あおちゃん!やるんだ。…生きてここから出るんだろう?」
(やらなければヤマト君はここで死んでしまうだろう。そんなのは絶対に嫌だ。…生きて、生きてここから二人で出るんだ。)

「ごめんねヤマト君。」
僕は彼の目にアイスピックを突き刺した。
二つの瞳が永遠に開かなくなってしまった。ヤマト君は微笑んでいた。

「ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいヤマト君ごめんなさい僕が、僕のせいで、」
「あおちゃん、大丈夫だよ。見えなくても君がそこに居てくれたら俺はそれでいい。」

"お疲れ様でした!一つ目クリアです!とっても痛そうですねえ!それでは二つ目と行きましょう!次は爪です。手の爪を全て破壊して下さい。"

爪と聞いて僕は少しだけホッとした。命に関わる部分ではない。

"爪は古来より最も辛いとされる拷問で使われた箇所でございます!中には気が狂ってしまった者もいたそうで、ああ怖い怖い。怖いですねえ"

「あおちゃん、あの声は無視していい。俺の声だけを聞いて。道具は何がある?」
「アイスピックとナイフと手錠と、ペンチ…」
「そっか。じゃあペンチで俺の爪を剥がしてくれ。」
「できな…」「あおちゃん!!!ここから出るんだろう?」

目が見えない恐怖とはどれだけのものなのだろう。その恐怖の中で今から自分が行おうとしている事は彼にとって生き地獄という言葉では足りないであろう。これ以上彼に苦痛を与える位ならばいっそこのまま、
そこまで考えた所で視線を感じた。もう無いはずの瞳で、彼が真っ直ぐと此方を見ていた。ねえ、どうして君はそんなにも強いの?痛かったでしょう、怖かったでしょう。なのにどうして、どうして君はそうまでして僕を守ろうとしてくれるの。
「あおちゃんが大好きだから。誰よりも君の事が大好きだから。君は俺の命だ。」

「ごめんなさいヤマト君。大好き、大好き、ずっとヤマト君が大好きだよ。」

僕はペンチを持って、一枚ずつ彼の爪を剥がしていった。
「がっ、…っ、あああ…!!!」
唇を噛んで抑えても漏れ出る悲鳴に手が止まりそうになる度彼は大丈夫と繰り返した。大丈夫、大丈夫と笑い繰り返した。

"お疲れ様でした!おや?ヤマト様の方は意識を失っている様ですね。余程痛かったのでしょうね!"

「次で最後でしょ。早く終わらせて僕たちをここから出して。」

"はい!次で最後です!それでは最後になります。

彼の心臓を破壊して下さい。"

「え?ちょっと待ってよ。何を言ってるの?そんなことしたらヤマト君が死んじゃうよ?」

"ええ、彼は死ぬでしょうね!ですが貴方は無事に部屋から出る事ができます!彼の方は気がついていた様ですが。私はこの部屋から出られるとは言いましたが、 二人揃って だなんて一言も言ってはおりませんよ?"

「ごめんねあおちゃん。」
「ヤマト君はわかってたの?!だったらどうして!嘘つき!ヤマト君の嘘つき!ここから出るって言ったのに!二人でここから、」
違う。彼は"二人で"ここから出るだなんて一言も言わなかった。
「ひどい。ひどいよヤマト君…」
「うん。俺はずるくてひどい男なんだ。君さえ守れれば何がどうなったっていい勝手な男だ。一生許さなくてもいい。だからお願いだ。生きてここから出てくれ。」


「あおちゃん、俺を殺してよ。」


「できない、できるわけないよ。」
「あおちゃん。」
「できるわけないでしょう!僕は、僕はヤマト君の事が大好きなのに。ヤマト君を殺すなんて僕にはできない。だったら僕が死ぬよ。僕の命をあげる。ねえ、それでいいでしょう?」
"アオタ様が自殺された場合はルール違反と見なし、即座にヤマト様も当方が殺します。"

「あおちゃん、最後のお願いだ。俺は誰だかわからない奴じゃなく、君に殺されたい。どうか君の手で俺の人生を終わらせてくれ。」
「あおちゃんが側に居てくれて俺の人生は最高に幸せだった。実はさ、もういつ死んでもいいって思ってた位。」
"残り、3分です。"
「…本当に勝手だよヤマト君。それでも好きだよ。僕はヤマト君が大好きだ。あのねヤマト君、今までずっとずっと僕のヒーローで居てくれてありがとう。最後までヤマト君は僕のヒーローだったよ。」
"残り2分です。"
僕はヤマトにキスをした。長い長いキスだった。
"残り1分です。"

『あいしてる』
彼の口はゆっくりと動くと、静かに微笑んだ。
そして僕は彼の心臓にナイフを


"お疲れ様でした!ゲームクリアです!見事アオタ様はヤマト様を犠牲にして外に出る事ができます!おや?何をしているのですか?"

「わかってたくせに。」

"何の事でしょうか?それではヤマト様、アオタ様もう二度と会う事はございませんがどうかお元気で!さようなら!"

"ブツンッ……"

ガチャン。手錠をかけた。一つは君の手にもう一つは僕の手に。
もう二度と離れる事がありませんように。これからどこまでも二人一緒に行けます様に。

「大好きだよ、ヤマト君。」

ゆっくりと目を閉じた。







"次は誰と遊びましょうか?ああ、あの二人なんていいかもしれませんね。"


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