ヤマトの運転する車の中で話すこと。それは先ほど視た白昼夢についてだった。ヤマトは適度に相槌を打ちながら華麗にハンドルを捌く。その様子に少しドキドキしながらなび、というものを見つめる。今日の行き先は洋物の着物を取り扱う店だ。
「…て、私変なこと言っているわね」
「いや、全然いいことですよ」
砕けて笑うヤマトはどこか誇らしげだ。なんで誇らしげなのかは分からないけど、安心したように微笑んでいる。話し始めた当初は心配だ、狼狽だ、という感情を表に出していたのに話している内にだんだんと暖かい表情になっていった。そして、そこでふ、と気付く。
(あ…)
今椿はただ笑うという行為を表面的に受け入れるのではなく、“暖かい”と感じられた。そしてそのことに自分で気付けて破顔する。
「どうしたんです?椿嬢」
「あ、な、なんでもないわよ」
一人でにやにやし始めた椿に怪訝そうに聞いてくるが椿の返答に返事をして切り上げてくれた。そう思考している内に洋物の着物を取り扱う店についた。店の名前は横文字でよく分からないが、女がいっぱい居る。現代の女性。
(…ダメね)
未だにあのような格好を醜悪だと思ってしまう、でも、同時に自分が焦がれているのもあのような格好である葛藤。そんな葛藤をしているうちにヤマトがいつものように車から降りて、椿側の扉を開けてシートベルトを外して、抱きかかえようとしてくる。
「あ!待ちなさい、ヤマト」
「え?」
抱きかかえようとしたモーションのまま、一歩ヤマトを後ろに下がらせる。下駄を自分で下ろして。
「椿嬢?!」
足を通して地に降り立つ。
「え、つば、きじょ…?」
自分の目の前で起こっていることに頭の上で大量の疑問符を浮かべながらヤマトはうろたえていた。だが椿の中ではそれよりも先に感じるものがあった。
(…なに、これ…)
いつもおぶられているから特に感じることのなかったアスファルトのごつごつとした感触、家に居るときのように歩こうとすれば下駄が擦れる感触、立って感じる引力に引っ張られる感じ、なにもかもが新鮮だ。新鮮で新しくて椿の心を揺さぶる。だが、そこでハッ、として首をふるふると振る。これからはコレを日常にするのだ、と。あの未来を自分のものにするために。
そうして一歩歩こうとすればヤマトがあわあわとしている、あぁ、新鮮な出来事が襲ったせいで忘れていた。
「ヤマト、さっきの話を思い出しなさい」
そう毅然と言い放てば、ヤマトは一瞬眉間に皺を寄せて、そのあとぽんと手を打った。
「やる気なんですね」
にっと笑うヤマトに微笑み返す。
「やるわよ、これはその練習なの」
その言葉にヤマトは頷けば、では、これからはそのように、なんて恭しく頭を下げて手をとる。
「なに?」
「でも、最初のうちはこうしてください。転ばれては大変ですから」
握られた手はいつも見ているのはずなのに見ている以上にごつごつとしていて、でも暖かくて。何故か椿の顔まで熱くなって。でも、振りほどくのももったいない気がして。ヤマトの顔を直視しないように先を歩く。
「しょうがないわね、許可するわ」
後ろでヤマトのくすくすと笑う声が聞こえる。でも、心の奥底からそれは不愉快なんてものではなくてくすぐったくて、椿まで嬉しくなってしまう。
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