*泥中の青蓮
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 もうどのくらいこうしているのだろうか。ここはとても寒いはずなのだが、今はもうその全てが痛みとなって、その痛みさえも許容量を超えたのか息苦しさに変わる。きっと、体が全くいうことを聞いてくれないのもそのせいだろうか。一面の白の中に、いくつかの青が混じる。それらはかつて人の魂であったものであり、自分自身の未来の姿なのだろうかと、舞白はどこか他人事のように思う。
 あまりの寒さに裂けた皮膚には青い蓮の花が咲く。それが本物の花なのかは白く霞んだ目では捉えることができないけれど、そうやって綺麗に果てていけるならそれもいいかもしれないと思った。


 そもそもここへ来たのがどのくらい前であったかなど、数えていないので知らないが、ここに求めていたものがないことは知っている。きっと、それを手に入れることはできないまま果てるのだ。
 でもこれもまた自分らしい終わり方なのではないかと舞白は思う。
 救われる事に興味などない。死後の温かい世界だなんてそれこそ信じていない。そんな自分の今までを、人生を否定される場所にいくくらいなら、せめて一緒にいたかったのだ。
 目の前で最愛の命が消えようとしていた時。舞白は迷わず、一緒にいく覚悟を決めた。それは別に相手の為なんかではなくて、ただ傍にいたいという我が儘でしかなかった。他の愛すべき大切な人たちがそれに反対をしていたことなど百も承知でその上で命を投げ捨てたのだから当然ともいうべきか。気づいたらここにいた。


 しばらくは寒さに震えながら、白に染められた世界の中を探し回っていたのだが、結局は動けなくなってしまい、それ以来ここにいる。
 探しにいかなくちゃ。会いに行かなくちゃ。我が儘かもしれないけれどそれでも。
気持ちはそう願ってもやはり体が動くことはなかった。そうしてただ時間ばかりが過ぎていく。元々、白い色をしていた舞白の肌は完全に色を失っていて、ところどころに青い蓮が咲いている。こんな姿をあの人が見たらなんていうだろうか。
 どこにいるかは分からない。もしかしたら、すごく近くにいるのかもしれないし、遠くにいるのかもしれない。いつも心のどこか奥の方では、『自分がいなければ何もできない』なんて思っていたけれど、それもきっと間違いなのだろう。傍にいて欲しかったのは自分の方なのだ。それでも、拒まないでいてくれたから。その優しさだけを頼りに傍へいきたかった。傍で生きたかった。傍にいたかった。


 また1つ青い蓮が咲く。蓮は泥中の蓮というくらいだから、きっと自分から生まれても綺麗に咲いてくれることだろう。舞白にはできなかったけれど、どうかこの綺麗な花だけでもと心の中で祈った。


 瞼に映るのは、普段の自分と少しだけ似た困ったようにも見えるそんな笑顔で、またと告げたあの人のこと。まだ出会えないあの人のこと。



「先に堕ちて待っていると貴方言った癖に」





*ちはやさんの綺麗な絵に合わせて。


 

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