*赤く染まれ
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 この世に絶対はない。そう気づいたのはいつだったか。食卓の上に置かれた冷めたスープが示すのは同様に冷たい関係になってしまった男女で、それでも世間体のためにと家族の形を保っている。別にケンカというわけでも、互いの悪口を言うわけでもない。ただ無関心なのだ。
 『愛の反対は無関心』。どこかでそんなフレーズを聴いて、なるほどと思わず納得した。高校を卒業して大学入学を機に家を出ても家族との関係はそのままだ。きっと、どこかで死んだとしても、連絡が入って初めて、あぁ死んだのか。それで?なんて返答があるに違いない。
 でも、それでも良かった。むしろ、家族の事なんてどうでも良かった。俺にはあの人がいたから。あの人に出会ってから、世界の見え方が変わった。それまでモノクロにしか見えなかった世界に突如として飛び込んできた痛烈な赤。
 それはやがて日常となり、1つ1つの幸せを嬉しいと感じて、初めてのことに戸惑うばかりの俺をあの人はそれすらも可愛いと認めてくれた。
 本当に何もかもが初めてだったから、加減が分からなくて、自分の制御も上手くできなかった。そのうち『逃げて』と『一緒にいて』が心に同居し始めて、さらにどうしていいか分からなくなった。
 どうしようもなくなったから2人の世界を閉じてみた。あんまり大きくなりすぎないように。この世界が変わらずに続いていけるように。

 そうやって随分と前に熱を失ったそれに対する情熱的なものは今でもまだ失われる気配はなくて。
 同じ世界の中をぐるぐると回りながら、形だけが外の世界に順応していくという社会性と呼べるかもしれないものを味方につけて今日も一日が始まって終わっていく。
 閉じられてしまったのだから、大きな変化もなく、楽しさや苦しさは小さいままで薄く感じるだけのまま。また2人の一日が終わっていくのだとそう思っていたのに。
 乱入者は突如として現れ、それらに一瞬のうちにひびをいれていった。せっかく完璧にしたと思ったのにいつの間にか大きな穴があいていたのだ。
 赤はあの人の色だからと思ったら、持ち物も自分も赤く染まっていった。今日も今日でいつもと同じようにブログの編集ページを開いて、慣れた手つきで文字を打つ。


 あぁ、今日は何を書こうと思っていたんだっけ。





*トキくんをお借りして独白文

 

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