*蝋燭は既に燃え尽きた
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*若干の暴力表現その他を含みます。





光の届かぬ部屋に灯るのは、彼の道中を照らしたであろう短い蝋燭だけ。
薄暗い部屋の中に喘鳴が響く。
もう体の殆どが感覚を失っていて、しかし焼け付くように熱い。
もしかしたらどこか折れているのかもしれない。
使い果たされ朱と白で飾られたそれを無表情に見下ろして兄はため息を1つ。

ふいに喉元に感じたのは節くれた指のもたらす焼けるような痛み。
欠乏する酸素、其の命を削る香を吸い込んで同じようにそれを擦り減らす。

「俺に逆らったな、舞白」

酒に酔った彼は呂律の回らない言葉で支離滅裂に責め立てる。
力の入らない僕の身体を嬲り、物理的にも精神的にも刻みこむ。

お前は俺の人形だ
俺の所有物だ
嗚呼

まし、

どこか奥の、更に奥の方で誰かが呼んでいるような声がする。
もう考えることはやめだ、最初から必要ない
僕は、

しろ、

蝋燭の火が揺らめく
ぎらり、兄の濁った瞳が光る。

ましろ

眼だ、兄の目をもう一度見ろ
お前はまだ死なせるわけにはいかないんだ

「兄、目、」

響いた声のままに眇めていた目を見開けば、目前に迫る兄の瞳。

いい子だ、舞白、代われ

1つの意識(シロ)が沈み、代わりに目を覚ますのは黒。

目を開け、実体を伴ったのを確認して、まずは一発。容赦なく顔面に向けて。

「よう、舞白をてめぇの思い通りに出来るかってのは、大間違いだクソ兄上殿?」

「あ?」

「舞白は寝たから、存分に俺とお話しましょうかチハヤサン」

「…誰だ、いや愚問だったな舞白」

「うん、半分正解かな」

「いや、完答だな。お前は今この状況下においてを対応し得るだけの仮初、それ以外の何者でもないただの舞白に他ならない」

兄の頬には紅が咲いているが、それを気にした様子もなく、彼はただ笑う。
その程度、意にも介さないというように。

「話、と言ったな。お前と話すことなど何もないが」

「つれないな、もっと俺と遊んでよ」

「遊ぶ?お前が仮に舞白でないとしても、この身体は舞白で、意識があいつに戻った時、痛むのはお前ではなくあいつだ」

人形とお喋りに興じる、意味が分からんが?

「、この糞野郎」

「それで?お前の望みは何だ?俺に殴られたいか?嬲られたいのか?それとも犯されたいのか?気が向いたら情けをかけてやるかもしれないな?」

少なくとも、俺を欲して映したんだろう?

蝋燭の火が揺らめく。
瞳がギラリと光って、その濁濁とした色に寒気がした。

自分の足で一つ踏み出したから、自分の言葉を発したから、
そんな馬鹿げた理由でこんな場所に閉じ込めて
自分を持つことを罰して、自分がいないと何も出来ない人形を侍らせたい。

それでも、
それでもアンタはそれを肯定してもらえる


「あは、どれも違う。俺は、アンタを殺したいんだ」


アンタはこんなに――――ているのに


「…つまらんな」

「何だって?」

「お前は俺を殺せない」

「殺せるさ、」

言葉が刃となって心を抉りに来る。
自分にはない実体を伴った言葉が。
震えるこの手はうまく動いてはくれないようだ。

「人にも為れぬものが、俺を殺せるものか」

視界を塞ぐように手が伸びる。ゆっくりと喉に触れたそれに一瞬の間をおいて、力がこもる。

短い喘鳴とともに空気が逃げていく。
あぁ。ーーと同じように、空気さえも奪っていくのか。

「ころしてやる、だいきらいだ、あん、たなん、か」

「もう少し俺を楽しませる言葉を吐けるようになってから抗えよガラクタが」

ガクンと力を失ったソレを床へと落とす。

つまらんな、本当に
結局お前は俺の、息をする玩具でしかない

興醒めだ。
この手に掛ける、価値すらない

所詮は真似事。絵空事。
面白くもない心など白く染めてしまえばいい。
そうすればまた始まるのだから。


蝋燭は既に燃え尽きた






【原案:hato. * 成文:舞白】



 

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