*喉元を手にかけて
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 ふと目を覚ませば、見慣れた自室と布団。そして、思いの外、近くで眠る兄の姿。普段は舞白の方が休息を必要とするから、無防備な寝顔を見ることは珍しい。自由気ままなように見えて警戒心の強いのだ。
 目の前にある呼吸される度に動く胸を見ながら、あぁ生きているのかとよく分からないことを考える。生きていて当たり前なのに。そうであってほしいと願っているはずなのに。
 熱を失った手をそっと兄の喉元に伸ばす。ここから発せられる声が、時に自分を救い、時に自分を殺すのだ。
「何だ、お前は俺を殺すのか」
手が触れるか触れないかといったところで響いた声に舞白は体を強ばらせる。
「・・・ころせ、るわけ、ないじゃないですか、兄さん」
体がガタガタと震え出す。あっという間に酸素がなくなっていき、頭の中でガンガンと警鐘が鳴る。このままではいけない。
 そんな舞白を面白そうに見つめた兄が手を伸ばす。手の甲で舞白の喉を撫でつつ、くつくつと笑う兄は何を思っているのだろうか。その思考を読めず、舞白は暗闇に突き落とされたような心地になる。
「っあ、・・・兄、さっ」
凍りついた喉は言葉を結ばない。
「どうした?お前がしようとしたことと同じだろう?」
兄の笑顔が怖い。素直にそう感じた。
 酸欠でくらくらとする思考はまともな対応策を導き出すことはできず、息苦しさにただもがくように胸に手を当てる。
 ヒュッと鳴った喉の悲鳴を残して、舞白の体が力を失う。
 だらんと布団に体を預けた弟の姿を見やって、兄は詰まらなそうにため息をつく。
「・・・逃げたか」
 極度の緊張のせいで足りなくなった酸素を取り入れようとせわしく動く弟の喉に触れる。汗をかいたのかしっとりとしたその喉元は思っていたよりもずっと細かった。


(俺が殺してやるって言ったらお前は頷くのか)
(泣き叫ぶ?抵抗する?ああ、どちらでもないか)
(俺はお前を手にかけない)





【原案:hato. * 成文:舞白】

 

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