*たゆたう指先
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 闇に包まれた部屋の中でそっと目を開ける。傍にある人の気配に、そっとため息をついて起こさないように起き上がる。布団に座り、視線をやれば心地よさそうに眠る顔。
 その白い頬をそっと骨格に沿って撫でる。想像よりも柔らかい肌の感触に、指が戸惑う。口元に浮かべた笑みは誰を思った笑みなのか、考えるほどに頭に自分以外の姿が流れ込んで腹からせり上がるような吐き気と憎らしさが襲う。

 
安らかな寝息、俺以外の名前を呼ぶ喉なんて、
長いまつげ、俺以外を映す瞳なんて
壊れてしまえばいい。

 
 渦巻く感情に理性がドロドロと溶け出す音と共鳴するように指先に力を込めた。

 
「俺以外、愛さないで」

 
 白い喉を締め付ける指の先が脈打つ鼓動を感じ取る。あぁ、生きているんだなと他人事の様に思う。そうして、気がつけば手を離していた。熱を失った指先が途方もなく彷徨う。

 
この手は俺の手じゃない。
この体は俺の物じゃない。
この心は俺の・・・。

 
 指先を自分の首に回してみる。脳裏に浮かぶのは、白い笑顔。そのまま、先ほどと同じように指先に力を込めていく。ゆっくりゆっくり沈んでいくように、呼吸が細くなる。しかし、当然のように途中で手が止まる。

 白い布団の上に座り込み、すっかり血の気の引いた白い手を見つめる。身につけている浴衣もそこへこぼれ落ちる髪の毛も全てが白だ。それらは闇の中でも存在を主張する。
 その白を避けるように暗紫色に手を伸ばす。これなら一緒に闇に溶けていけるだろうか。

 

君を殺す事なんて、俺にはできない





【原案:hato.*成文:舞白】

 

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