華患い
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「やまと、喉が渇いたわ」

空を眺めながらふと、いつものように言いつけてやる。…返事が来ない。

「やまと?聞いて…」

私の命を無視するなんて、と傍らを振り返れば其処には誰も居なくて。
そういえば今日は休みだったわ。と思わず溜め息を吐けば使用人を呼びつけ緑茶と和菓子を用意させた。

暫く庭を眺めながら和菓子の甘さを味わっていれば男の声が届き邪魔をされる。
そういえば新しい反物が欲しくて商人を呼んでいたのだった、と思い直せば入室の許可を出してやる。
沢山の反物を用意したのだろう、大きな荷物を持った商人が私の前で荷を広げ始める姿を視界の端に追いやり、どんな柄が良いだろうと思考していれば、ふわり、と商人から漂ってきたのはやまとと同じ香の匂い。

香りなんて消えるのは早い癖に、ほんの僅かでも香れば望まなくとも強く想起させる。

…忌々しい。偶然だろうとこんな男がやまとの香りを纏わせているだなんて、あぁ…本当に

「不愉快だわ」

私の呟きに商人がぎょっと目を剥き焦りを露わにする。…醜い顔ね。商人はおどおどと謝罪の言葉を述べるけれど、形ばかりの謝罪に尚更腹が立つ。

「その香、お前には不釣り合いよ。出て行きなさい」

…せっかく赤の羽織りに似合う反物を、と思ったのに。あの商人、お兄様に言って替えさせようかしら?無能な商人なんて必要ないものね。

不快感を紛らわせようと空に視線を移せば綺麗な蒼い空。…あの雲、猫みたいで可愛いわね。そういえばやまとも…と浮かんだ思考を掻き消すようにお茶と共に呑み込んだ。

ただやまとの香りがしただけ、その程度。なのにこんなにも恋しい、なんて…


「馬鹿らしいわ」

   

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