ここのつの冬
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陽水が呼んでいると椿が使用人に連れられたのは、薄暗い地下牢。湿った空気に微かに香る鉄の臭い、初めて体験した空気や臭いに何故か椿の心に嫌悪感が沸き上がっていく。

「お父様…?どこにいらっしゃるの?」

何の為にあるのかもわからない薄気味悪い場所に使用人と2人であるという事実が幼い椿を不安にさせ、父を呼ぶ声も不安気に揺れている。
使用人に案内された場所には陽水と複数の大人が待っていた。重厚な椅子に座っていた陽水は椿を見ると立ち上がり、おいで、と笑む。
椿はおずおずと父の待つ牢屋へ入ると先程まで陽水が座っていた椅子に座るよう促される。素直に従って座れば複数の大人に椿の小さな身体は抑えつけられた。椿の目線の先には不思議な器具と椿の足よりも幾分か小さな可愛らしい靴を用意している年老いた男。

「お、お父様…?」

わけがわからない。椿は突然の事態に混乱し、縋るように父を見上げる。

「これは私達に必要なことだ。椿は良い子だから、我慢できるな?」

陽水はそう言って甘く笑むと椿の頭を優しく撫でる。
それを尻目に年老いた男は、では失礼して…と椿の足へと手を伸ばした。

「痛いわ」

年老いた男は何も言わない。ただ椿を映す瞳は憐みに満ちていた。

「ひっぐ!?」

足の指が痛い程折り曲げられる。

「ぁ…あ、おと、さま…」

ぞわり。全身の毛穴から汗が噴き出す感覚が椿を襲う。震える声で、溢れんばかりの雫を溜めた瞳で、父を呼ぶ。

「いや、やだっやっあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」

陽水は何も答えない。大粒の涙を惜しげもなく流し苦痛の声を上げる椿をただ見詰めている。必死に身を捩り、頭を振り、逃げようともがく椿の身体を抑えつける力は緩まない。

どうして、どうして、椿は「良い子」にしていたのに。

身体中から汗が噴き出す。恐ろしい程寒いのに灼ける程熱い。耳鳴りが五月蠅く響く脳内は目まぐるしく回り、意識が遠退いていく。
滲む視界に映る父の瞳は氷のように冷たかった。


   

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