小さな約束
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幼稚園に通う千羽陽を迎えに行くのは大抵椿で、椿が仕事で行けない時には舞白が迎えに行っている。
今日の迎えは椿だ。お迎えのお母様方に混ざって幼稚園の門をくぐる。一切の違和感なくお母様方に溶け込んでいる椿は流石というべきか。

「千羽陽くーん、椿さんが迎えに来たわよー」

女性特有の甘い声音で千羽陽を呼ぶ女性教諭はどこかそわそわと落ち着きがなく、ちらちらと椿を見る瞳は雌のそれだ。
裕福な家で美形兄弟だと、椿も舞白も女性教諭やお母様方に人気なのだ。

「つばきにぃ…」

帰り支度をした千羽陽は何があったのかめそめそ泣きながら椿の側へと歩いてきた。
椿は慣れた様子で泣いている千羽陽を抱き上げると、椿と会話をしようとする女性教諭を角が立たない程度にあしらい千羽陽を抱いたまま帰路へとつく。

家へと向かい歩いている椿の耳にぐすぐすと千羽陽の啜り泣く音が響く。

「今日は何があったの?」
「…しーちゃんがなぐった」
「どこが痛いの?」
「あたま」

椿が優しく千羽陽の頭を撫でる。

「やり返した?」
「んーん…」
「そう」

慰めるように、癒すように、千羽陽を撫でる。

「千羽陽、何食べたい?」
「…アイス?」

椿に問われたため千羽陽は顔を上げて軽く振り向く。目の前にはアイスクリーム屋さんがあった。
千羽陽はメニューを見せて貰うと小さく「…チョコ」と呟く。椿はチョコとバニラのアイスを頼むと店の側にあるベンチへと腰を落とした。
椿が千羽陽を後ろから抱くような体勢で膝へと座らせると丁度店員がアイスと小さな袋を持ってきた。1つはカップに入った大きめのチョコアイス、1つは綺麗に巻かれたバニラソフトクリームだ。

「あの、これ、サービスです」

頬を薄く染めて差し出されたのは小さな袋に入った2つのシュークリーム。椿は薄く微笑んで礼を言うと差し出された袋を受け取った。

「ごちそーさまでした!」

子供とは現金なもので、アイスとシュークリームを食べ終わる頃には泣いていた千羽陽も元気になっていた。
満足気な千羽陽を見て椿はそっと微笑む。舞白のように直接的な優しい言葉をかけることはあまりないが、いつも椿なりに心配しているのだ。ただ少し、不器用なだけで。

「あ!つばきにぃ、あっちいこ!」

何かを思い出したように千羽陽は目の前の公園を指差す。しかし一向に椿の膝から降りようとしない。これは連れて行けということだろうか。
椿は千羽陽を持ち上げるとそっと地面に降ろした。

「つばきにぃもいくの!」
「あら、仕方ないわね」

降ろされたことで椿に行く気がないと思った千羽陽は可愛らしく頬を膨らませて椿の手を引っ張って歩いていく。
千羽陽が立ち止ったのは草花が咲き誇った一角。千羽陽は椿の手を離すとしゃがみ込みぷちぷちと数本の花を摘んでいる。

「あのね、きょう、おはなのわっかつくったの」

椿は花と花を繋ぐように茎部分を拙いながらも結んでいる千羽陽の隣に屈む。そっと千羽陽の顔を覗くと真剣な表情で花と格闘している。子供らしいその姿が可愛らしくて思わず椿の頬が緩んだ。

「できた!」

暫く待っていると隣から嬉しそうな声が上がった。どんなものが出来たのかと椿が顔を向けると

「けっこんしたら、ずっといっしょにいられるんだって。だからね、おれ、つばきにぃとけっこんする!」

千羽陽は椿の左手を掴むとその小さな手で作った拙い花の指輪を椿の薬指にはめた。
結婚。その意味などわかっていないだろう千羽陽の純粋な想いに、椿は何かが満たされたような気がした。

「ありがとう、嬉しいわ。千羽陽が大きくなって、それでも私と結婚したいと思っていたら、ね」

椿は千羽陽の額にそっと口付けを落として微笑む。
千羽陽の純粋な笑顔を見ると兄弟で結婚は出来ない、なんて今は言いたくない気がした。


 

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