雪椿
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あれは雪の降る寒い冬の日。


襖の微かな隙間から見える光景に、椿の大きな瞳は零れんばかりに見開かれた。

「…どうして」

私には触れることもしない癖に。

椿の脳内には純粋な疑問、そして舞白への嫉妬が生まれていた。

どうして舞白兄様には触れているの?どうして舞白兄様を抱いているの?どうして

「私を愛してくれないの?」



【雪椿】



確かな、しかしどこか覚束無い足取りでぺたん、ぺたん、と椿は広い廊下を歩いている。
使用人達が近くを通る度、椿を目的地へと送り届けようと申し出るが椿は冷淡に、悉く断っていく。
先程の光景が、屈辱が、椿の思考を占めているからだ。

ふと気が付いた時、椿の視界は白で染まっていた。ひやり、冷たい風が頬を撫でる。
いつの間にか外へと出ていたらしい。さく、さく、と雪を踏む音を響かせながら冷たさに震える足等気にもとめず気の向くままに進んでいく。


どれほど歩いただろうか。
椿の白い肌は赤く色付き、悴んでいる。

「…痛いわ」

椿は小さく呟き目の前の木を背に座り込んだ。投げ出された椿の小さな足は真っ赤に色付き痛みを訴えている。

「どうしてかしら…」

愁いを帯びた瞳が閉じられる。意識が深層へと沈んでいく。寒さが遠退いていく。何処かから声が聞こえた気がした。




次に見えたのは見慣れた天上と少し疲れた兄の顔。

「に…さま?」
「…椿、体調はどう?」
「たい、ちょう?」

言われてみれば全身怠くて熱いし、頭が重い。

舞白は椿が何処かに向かったきり中々戻らないことを使用人達から聞き、心配になり探していたら雪の中で倒れている椿を発見したこと。その時には既に椿が高熱を出し呼吸が浅くなっていた為すぐに医師に診せたこと。椿が2日間眠り続けていたこと。
を、頭が上手く働いていない椿にもわかるようにゆっくりと話していった。その表情は疲労と椿が目覚めたことへの安堵を映している。

「そう…ごめんなさい舞白兄様。お仕事もあるのに迷惑をかけてしまって」
「それは構わないけれど、どうしてあんな雪の中外に居たの?」
「…少し考え事をしていて、気付かなかったの」

椿は舞白ではなく天井を映しながら小さな声で答えた。小さな、小さな嘘を混ぜて。
舞白は困ったような、しかし少しの呆れが混ざった優しい兄の顔で椿を短く叱ると医師を呼ぶため席を外した。

舞白が医師を連れて戻るのを待っていなければ、と思うが、すぐにでも意識を飛ばしてしまいそうな眠気に襲われ椿は誘われるままに瞳を閉じた。



 

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