05
あのあと復活した転校生と地味に柚弦を取り合って(結局クラスメイトにとられた!漁夫の利!!)、2時間目、数学。俺の嫌いな数学は残念ながら自習にはならなかった。残念。ほんとに残念。
おとなしく座ってるけど、せんせーの言ってることなんてわからんちーん。
そんなことより。
俺のほぼ対角線上、斜め前が柚弦の席。
新学期、名前順のせいで柚弦が遠い。けど、前を見れば視界に入る位置に柚弦がいる。
にへ、とたちまち頬が緩む。
かくかくと僅かに柚弦の頭が揺れてる。
ほんとに朝っぱらから美術室にいたんだろーなあ…。
珍しく柚弦が授業中に寝てるよう。
「かっこよいくせにかわいいとか!」
「うるせえぞ高南!!」
「ウッ!いたー、何これええ…」
怒声と一緒に飛んできたチョークが俺のおでこにクリーンヒット。
しかも1本じゃなくて5本束だあ、いじめだぁ。
「何すんのホストせんせー」
いたいけな少年にチョークを投げつけた張本人を睨めば、今度は出席簿を手にしてた。(それは流石に痛いぬ)
「誰がホストだ、あ?てめぇ、この俺様の授業中に騒いでんじゃねえ」
「じゃあ俺様せんせー、赤シャツ肌蹴るのやめてくださーい。ついでに金のネックレスやめてくださーい」
あとエロい雰囲気醸し出すのきんしー!
つらつらと文句をこぼしつつ、えいえいと投げつけられたチョークを俺様せんせーに向けて投げ返す。
「俺様はかっこいいからいいんだよ。あとチョークこっちに届かねえで、前の奴の背中に当たってんぞ」
「うおぉ。ごめん佐藤」
投げ返してるのに何も反応ないと思ったら、佐藤の黒いセーターに全部直撃してた。
超白くなってる。
「いや気にしてねぇよ、俺田中だけど」
「嘘つかなくていいんでっすよ、涙がキラリしてるよー」
「田中が泣いてんのはそこじゃねぇよ!」
後ろの奴のツッコミに、またお調子者のクラスメイトが騒ぎだした。
「ひでえ!ゆるいじゃ許されないくらいひでえ!!」
「泣くな田中ぁ!俺はちゃんとお前の名前覚えてるからな!!」
笑い声が響く中、ついに我慢がならなくなったのか、ばん!っと机を叩いたのは、俺様せんせー。
…ではなく、小柄な生徒だった。
「ちょっとお!!あんたたちうるさい!!金城先生の授業邪魔しないでよね!先生の声聞くチャンスなのに雑音うるさくて仕方ないよ!」
ついには立ちあがって怒鳴るものの、ちっさいせいか怖くにゃー。
ていうか俺様せんせー、金城って名前だったっけ。ずっとホストって呼んでたから忘れてたぬ。
「大体っ!高南くんも、先生に向かって失礼じゃない!!顔が良いからって、そんなの許さないんだからね!」
あれ褒められた。
びしぃっとこっちを指をさす動作は転校生と同じだったけど、和むのは何でであろー。
ちっさいからかねえ。
小型犬みたいだからかねえ。
みんなのにやにやとした視線受けて真っ赤になっちゃって、あらまあかわいーかわいー。
というか、転校生と言えば、こんな状況まっさきに大声で注意するかと思ったけど、意外と静かだぬ?
さっきはすごかったのにどしちゃったのかしらーと転校生の席を見ようとした時、今度こそ俺様せんせーが勢いよく出席簿を机に叩きつけた。
凄まじい音に、しん、と教室が静まりかえる。
がた、と小さく響いたのは、立ってた小型犬が気圧されて座り込んだ音だ。
「…オイ、ガキどもよ……。俺様の授業騒ぐんじゃねえって、何回言わせるつもりだ?いつまで中坊だ、調子こいて大人なめてんじゃねーぞ。この俺様がわざわざ準備して授業してやってるっつーのによ…」
もう一度出席簿を叩きつける俺様せんせーに、びくうと身体がはねた。
うええ、俺様せんせーが怖いよう、マジ切れだよう。
ぴょこっと手を挙げる。
「俺様せんせー、うるさくしてごめんぬ」
「謝罪が遅ぇ。んでなんかムカつくから、お前昼休み数学準備室な」
うっへえ。最悪だぬ。
とか思ったけど出席簿片手に言う俺様せんせーにこれ以上怒られるのもやだし、大人しくうなずいておく。
けど舌打ちが聞こえたから、うっへえって顔にしっかり出てたと思われる。
「ところで峯柚弦!!てめぇいつまで寝てるつもりだ!!」
うおお、この空気の中まだ寝てたの柚弦!というかあの騒ぎの中寝てたの柚弦…!
最強だ…!やっぱり柚弦ってすごいよ、なんかよくわかんないけどすごいよ柚弦!!流石俺の運命の相手!!
もちろん寝ながらにして俺だけでなくクラス中の尊敬の視線を集めた柚弦は、第二のチョーク被害者となったのでした。
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