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満足気な会長は島幸高を引き連れて、柚弦を振り返った。

「あとは譲ってやる。俺が前座になってやったんだから、きっちりきめろよ?」

「うー、だから早くゴールしたかったのに…」

『じゃあ、次は峯くんね』

「はい」

会計に手渡されたお題の紙。

『大切なひと』

読み上げられたお題に、会長ほどじゃないにしても、悲鳴は確かに聞こえた。
それを聞きながらも、マイクを受け取った柚弦は深く息を吸いながら周りを見渡す。

「うん、大切なひと。高南晃希で、あってるよ。あ、ちゃんと恋人としてって意味でね?」

慌てたように付け加える柚弦が可愛い。きっちりきめろって言ったろうが、と言わんばかりに会長が溜息をつくのも見えている。それでも信じられなくて古典的に頬を引っ張ってみた。

なんだこれ。夢か。幻か。

「…俺を、選んでくれるの」

「選べるような立場じゃないけどさ」

いやいや選べる立場ですよ。ずっとずっと選んで欲しかったんですよ。

「なんていうか、もう、俺がここに立っていることが全てだと思うんだけどさ」

全校生徒の前に立って、1人1人顔を見渡すように視線を巡らす。仲の良い友達も、先輩も、その中には数えきれないほどいる。

「俺はただの一生徒で、ここで当たり前に日常を過ごして、当たり前に卒業して、当たり前に大人になっていくんだと思ってた。でも晃希はいつだって俺を連れ出してくれた。到底想像してなかった場所まで。それで一緒にいて思ったんだ」

ふにゃ、と照れたように笑うから、期待して見つめ返す。

「夕陽が綺麗だなあって」

「俺を見てって言ったのに呑気に景色を堪能してらっしゃる!!!!!」

「ふ、あはは、お怒りはごもっとも」

ご機嫌なのか、くすくすと小さく笑い続ける柚弦。わざとからかわれてますねこれは!?

「でも、本当のことだよ。晃希の傍にいると綺麗なものがたくさん見える。同じ景色のはずなのに、世界が綺麗に見える。それがわかったらもう迷う必要はないかなって。晃希は俺がいま結論出せなくても、ずっと好きって言ってくれちゃいそうだし、甘やかしてくれそうだけど、だったらもう今から俺だけのものになってほしいなって思ったんだ」

「おれだけの」

「正直、全然考える時間は足りてないし、俺自身まだまだ未熟だから、心配してくれたように、これから晃希といることでしんどいこともあるかもしれない。でも、10年先20年先、お前の傍でいろんなものを見て、いろんなことを経験した俺は、きっと今より強くなってる。いまの俺が想像して、しんどいと思うことも、乗り越えられる力を手にしてるんじゃないかなって」

「にじゅうねんさき」

「あ、いやもっとかかるかもしれないけど!?」

俺は柚弦のことが好きで、これから先もきっと好きで、だけどいつか終わりにしなきゃということを薄々わかっていた。高校卒業か、どこかのタイミングで叶わない恋は諦めなきゃいけないんだって。だから今必死にならなきゃって、どんな努力もできた。

そしたらぺろっと人生全部が返ってきた。

「…柚弦は馬鹿だ、こんなとこで言っちゃったら、もう逃げられにゃー。俺はわがままだし優しさにつけこむし、柚弦を傷つけたりだってするんだよ」

「つけこんでくれていいよ?」

マイクとともに首が傾げられる。器の大きさを見せつけられてるのに仕草がかわいくて困る。とても困る。泣いてしまいそうだ。

「それで、もっと晃希を好きになるかもって思ったらちょっとどきどきするね。案外、お前にされて嫌なことなんてないかも」

とどめにその言葉が涙腺を破壊した。俺のことを責めてもいいんだよ、そういう手段を使ったんだよって、ずっと引け目を感じていた自分をまるっと受け止められて、何も言葉にならなかった。



「峯くーん!!好きだよ!!!」

落ちた沈黙に誰かが叫んだ。
きょと、と目を丸め声の方に顔を向けた柚弦は、ふにゃりと笑う。俺のだいすきな笑顔だ。

「ありがと。でも、ごめんね」

おひさまみたいな笑顔がこっちを見る。眩しくて、余計視界が滲んだ。


「俺、いま好きな子がいるんだ」






end


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