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体育祭当日。


「ついに当日がやってきましたー!」

「おつかれさまー!!」

クラッカーを柚弦と二人で打ち鳴らす。美術部が装飾完成のお祝いに買ったものの余りらしい。

「いやまだ何も終わってないんだけど?」

朝っぱらから無駄なところで体力使うのやめてよね、と心なしかぐったりした会計が、それでもノリよく手渡したクラッカーを鳴らしてくれた。

「まあ、補佐で助かったところもあるから多少は大目に見るけど、いまちょっと面倒なことになってるから」

「親衛隊のことかぬ」

島幸高だけ生徒会に近付いてずるい!という気持ちは、行事への一般生徒の参加で多少薄らいではいるようだけれども、だからといってそれだけで今まで積み重なってきた島幸高への反感がなくなるわけじゃにゃー。
イケメンのみなさまは人気だし、恋心は複雑なのである。

ただ、謝罪に出回って、島幸高に対する制裁や陰口はぐっと減ったらしい。
会話の噛み合わない島幸高が、神妙な顔をして素直に謝罪した。見た目を変えようと努力した。それだけでも衝撃的だけども、なにやらコンプレックスがあるらしい、ということは見た目に対する文句を封じる強い要因になったとみえる。

「みなさまも思ってることがあるなら伝えたらよいよ」

島幸高にしてもらって嬉しかったことやしてあげたいと思ったこと。本当は困ってること、期待を裏切るようなことだって。

たしかに、いつか会計が言ったみたいに、分かり合えないなら黙っているのが一番賢い方法なのかもしれにゃー。

でも柚弦のことだって、知らないことも辛いこともあるけれど、それでも傍にいたいと思ってしまったので、この口はすぐいろんなことを言ってしまう。

「そりゃ大変だけど、みんなちゃんと傷つくための心を持ってるんだから、大丈夫だよ」

誰になんて言われても、心が傷つくたび、ちゃんと恋をすることに生まれた時から身体が備えられていたのだと知る。

好きな人から無理だってことを突き付けられるのは辛いことだけど、それでもいいよ。
何度泣いてもそれでもいいよ。

「俺はだって、柚弦になら何言われてもいいもの」

俺のこと嫌いなの。
俺には友達いるのかな。
晃希は気にしなくていいよ。
晃希はきっとモテるだろうし。

たくさんたくさん、零れた言葉がある。
耳を塞いでしまいたかったような言葉がある。

「柚弦がくれるものなら、痛い言葉だって大切にしたいと思うし、その言葉を生んだ心を愛おしいと思う」

「ぇわあ、」

「だから柚弦もそう思ってくれたら嬉しい」

いや、違う。柚弦はいつもそうしてくれていた。
島幸高が絵をぐちゃぐちゃにしちゃったときも、俺が縁を切ろうって言ったときも、そんな表面的な出来事じゃなくて、もっとその心のなかを見ようとしてくれた。
だからみんな、柚弦のことが好きになるんだ。

「なにを開き直ったか知らないけど、ここでぶちかますのやめてくれるかな」

「ぬーん」

「あと峯くんが謎の声出しながら震えてるけど」

顔を覆い隠した柚弦から羞恥で泣きそうな声が漏れてちょっと満足した。



柚弦への恋心をわざわざ隠す必要もないし、お仕事で別々の持ち場につくときに、一緒にいたい〜ってわがままを言ってみたら、「俺はちょっと離れたい…」てどストレートに拒否された晃希くんです。

やる気でないよう、て足で地面にぐりぐり書いて悲しみを紛らわす。

今回の体育祭は題して庶民派体育祭。
島幸高がやりたいと言った競技を中心にしているから、よくある一般高校の種目ばかりだ。
正直最初は乗馬とかわけわからない単語があったので、その点については俺もよくやったと思っている。
パン食い競争のパンの単価が二度見するレベルだったとか、挙げればキリはないけども、なんとか開催までこぎつけた。

全部全部、島幸高のためだ。
どんなに大変になろうと、みんな島幸高のために変えようとしている。

島幸高は確かに問題児だ。
激しすぎる自己主張も、会計が言うところの自分の領分を超えた行動も。
けど、そこには確かに不器用な優しさがある。
もし、その行動力をきちんと定めることができれば。相手のことを、考えられる思慮深さがあったなら。

「俺も、なんでモテるか、わかっちゃったなあ…」

島幸高。俺の最大のライバル。
なんでみんな島幸高のことが好きなのって、知りたいと思ったのは俺だけど、知らなければよかった。

(何回目の負けなのかわかりませんねえ…)


「ねえ、さっきあのマリモ皆様と仲良さそうにしてた!」
「ほんと、いつまで付きまとってるつもりなんだろ」
「身の程わきまえろって感じ」

行事に参加していると、生徒の声は自然と聞こえてくる。
柚弦の傍はあんなにあったかいのにねえ。不穏な空気を吸ってはふひゅうと吐き出した。


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