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「はああああ!?!!!予算が?!!!ない!!?!んなわけあるかーい!!!」

予算要求を突き返すと大体がこういうリアクションだった。

「あるじゃん? 毎年毎年先生に依頼してた潤沢な資金が? プロに払う金があって、素人が使う材料費がないわけないじゃん?ないじゃん?」

「いや普通だったらそうなんだけどね〜」

相手の剣幕をものともせず、会計は島幸高を示した。

「誠に申し訳ございません」

しょんぼりと黒いマリモがうなだれる。ちなみにその手には「私が備品を壊しました」と書かれたホワイトボードが握られている。

もしかしたら会話にならないかもって会計が作成してたけど、あと多分カッとして暴れないように手を塞いだものと思われるけど、いつも効率ばっかり選んで扱い雑なのどうかと思います!!あと、その姿にゆづるんが「なんか可愛くて和むね~」って微笑みかけるのもどうかと思います!!告白されといてそういうこと言うのやめようねえ!!

相当ツボなのか柚弦は行く先々でこの光景に1人爆笑をかましていた。周りの野次馬が釣られて笑うから、謝罪行脚が爆笑行脚になりつつある。そのおかげか、島幸高に対する陰口は聞こえてこにゃー。
うぬぬぬ、みんな柚弦ばっか見るのやめてえ…。俺の運命の人だからとっちゃだめなんだからね!!これ以上ライバル増えたら困っちゃうんだからね!!!

「お前は笑ってる場合じゃないから美術部!!」

しまいには矛先が柚弦に向かって、咳払いでなんとか笑いを止めた柚弦は、うって変わって真面目な表情を作る。そんな顔もイケメンでときめくぬ。

「美術部も大幅に削減です。うちで使うのは消耗品ばかりなので、正直大ダメージです。けど、逆に燃えるじゃないですか?限られた費用の中で、理想をいかにして実現させるかって。もしかしたら、その中で理想を越えるものが生まれてくるかもしれない」

「峯……!」

「芸術魂見せてやりましょう先輩!」

文化部同士通じるものがあったのか、固い握手が交わされている。ちなみに大好きな柚弦に「大ダメージ」って宣告された島幸高はより悲壮な顔(雰囲気) だ。

「あ、高南だ!」

「でた、峯くん好きな犬みたいな子」

「恋心バレすぎではなかろうか!?」

「かわいそうだから、今回の予算で妥協してあげるよ…」

「だから振られてにゃー!!」

あの手この手で順調に謝罪行脚を続け、笑いと握手を生み出していくなか、可愛い顔立ちをした先輩とばちりと目が合った。

「ていうかさあ、」

相手の低いトーンの声が聞こえた瞬間、うわあ…と会計が面倒くさそうな顔をしたのがわかる。親衛隊に入っている先輩なのかもしれにゃー。

「大体、なんであんたみたいな子が生徒会にいるの!?」

「っそれは今回のことと関係ないだろ!!」

しょんぼりしていたマリモが勢いよく顔を上げた。ぴょこぴょこぴょこと髪の毛が揺れる。
会計が間に入る前に、張り詰めた空気に届いたのは笑い声だった。

「ねえもしかしなくてもゆづるん」

「ご、ごめっ、ふ、ふふふ…!」

「いやいいよ笑うがいいよ…すでに爆笑行脚って囁かれてるくらいだから」

「ば、ばくしょ、っはははははは!」

「火に油注いでんじゃないよ」

「ごめんぬ」

先輩も柚弦の性質を知っているのか、呆れた様子ですっかりクールダウンしている。
引き続く謝罪行脚…いやもう爆笑行脚でいいかな、沸点がより低くなってる柚弦はにこにこしたまま「幸高髪の毛切ったんだねー」と呑気に言う。

「う、うん!」

ぱあっと嬉しげに島幸高の顔が輝く。
そういえば確かにぴょこぴょこしてるなあって思ったけれども、まさか喧嘩の寸前でそんなところがツボに入るとは晃希くんも想像してなかったね…。

「うっとうしいって言われたから、ちょっとでもマシになればいいなって、不器用だから全然上手くできなかったけど、切ってみたんだ!!」

「………切るなら、もっとしっかり切るなりすれば? ボサボサじゃん」

「っやだ!」

伸ばされた先輩の手から逃げるように、素早く島幸高はホワイトボードで顔全体を隠した。

「見られたくない…!」

「わあ!?」

再び悲鳴は柚弦の口から上がった。

「…あのねえ、峯くん」

「ちが、この人がくすぐって…!」

柚弦が崩れ落ちそうになりながら、いつの間にか両側から肩を組んできている人たちを指さす。

「この人ってなんだ、ノンケ同盟のお友達に対して?」

「聞き覚えのある笑い声が響いてくるから何事かと思えば、面白そうなことしてるじゃん?」

「ちょっと、待って、くすぐるのストップ、ちょっとおおお」

慣れた手つきで柚弦の脇腹をくすぐる2人。仲がよさそう、っていうかあれ?いまノンケ同盟とか言った?
俺にとって厄介な同盟の存在が明かされてない?
直前の緊迫した空気を吹き飛ばすテンションだ。

(というか、わざとなのか)

一瞬牙を剥いた先輩も、もうこれ以上なにも言う気はないのか追い払うかのように手を振った。
会計がその隙に島幸高を背に隠す。心配しなくとも、もとから爆笑行脚だからねえ。
あ、ノンケ同盟こっち見た。

「よ、高南と島もお疲れー」

「この笑い上戸連れてよくこんなことやったよね?」

「名前を知られている!!」

「そら、峯が直々によろしくって言いにきたし?」

「昼飯まで奢られりゃ、そりゃね?」

詳しく聞く前に柚弦がおしゃべりな2人の腕を引っ張った。

「それ言わないって約束! あっ、会計さんたちは先戻っててくださいね!」

ほら行くよ!と逃げるように背を向けた柚弦に引きずられながら、ノンケ同盟とやらの2人がそろってピースサインを向けてくる。


「なになに?なんの騒ぎ?」
「ほら、さっき言ってた爆笑行脚」
「会計さまが来てるって」
「あと笑いの沸点異常に低い、」
「あー、うるさいと思ったら峯か」
「えっノンケ同盟集まってたの?」
「みなさま、体育祭の準備楽しそう」
「やっぱり、今年からやり方変えると大変なのかな?」
「会議多いみたい」
「協力してあげたーい!」


謝りにいったはずなのに、歩くたび、笑顔が広がっていくのを目の当たりにして会計が瞬いた。

「…やっぱり君にあの子は手に余るんじゃない?」

「ゆづるんが人気なのは存じておりますう…」

「そうじゃないよ。大体峯くんが君のこと好きになったとして、付き合えるかは別でしょ?万が一気持ちが変わったとして」

気持ちが変わったとして、を会計が丁寧に丁寧に紐解く。

ノンケ同盟とやらを裏切って。
振っても振っても、峯だから仕方ないって思われるほど、人に優しくして。
生徒会に入っても、ノンケだからって安心を得ておいて。
ずっとずっとここで過ごしてきた彼が、努力して人脈と信頼を積み上げてきた彼が、やっぱり男を好きだなんて、そんなこと本当に言えるのかな?

「期待されておいて、本当はそんな人間じゃないんだよって、全てを捨てられるのかな?」

「なんで捨てるの?」

聞いただけなのに、舌打ちが返されて晃希くん悲しいです。

期待を裏切ってと言われましても。

「会計知らないの? そういうのギャップ萌えっていうんだぬ」

「………。……君ちょっと書類持って」

どさどさ、とみんなから同意をもらった予算書類が両手に乗せられる。

「と、突然なに、っぷえ!!」

額叩かれた!書類で両手ふさがれたうえで額叩かれた!!!なにゆえ!?

「優しくしてあげよう!?」

「優しくなんてするわけないじゃん、自分に絶対返ってこないってわかりきってるのに、優しくなんてするだけ時間の無駄」

それ生徒会室まで運んでおいてって言い残して去る背中を島幸高と二人で見送る。
島幸高が俺の額に目を向けた。

「やっぱり晃希はすごいなあ」

「なにが!?!!デコが!!?!?」


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