38

で、結局修羅場は島幸高を抱えるこのクラスで起こるというわけでっすね、うん。

「空気が重いです」

この教室だけ空気の重さ間違えてる。ここだけ重力が頑張ってる。
それもそのはず、クラスには生徒会長と会計がいる。もちろん、舞台上で出来なかった島幸高のお願いごとを聞くためだ。

もうそこらへんは勝手でよいじゃん〜って思うけども、学校の行事だし、生徒会の権力が強すぎるから、公の場で願いを言って了承を得なくてはならんのだと。面倒である。今回は騒ぎが騒ぎだから、最低限クラスの了承って形にしたらしい。

みんなの前ってことで、普通の子は恥ずかしがっちゃったりするものであろーけども、そこは島幸高、堂々と言い切った。

「俺、生徒会補佐やりたい!!!」

その願いに、おろ?と首を傾げたのは俺だけじゃにゃー。2分の1も、なんなら三鷹まで、「えっ?」って顔をしてる。あ、若干名顔は見えないので雰囲気で推測しております。

だって散々柚弦柚弦言ってたのに、なんで生徒会補佐?
忙しいし、余計離れ離れじゃん?

一部の人を混乱に落とし込みながら、島幸高がもう一度口を開いた。

「ただ、あとひとり俺と一緒に生徒会補佐やってほしいんだ」

「…あ?」

そういったのは会長だった。珍しく金の切れ長の目を瞬かせてる。

「幸〜、生徒会補佐は毎年一人だよ?」

「なんだよ、俺のお願いだぞ!!二人じゃなんかダメなのか?」

「うーん?」

口を出した会計が首を捻った。そんなこと会計が知るはずなさそうである。もちろんすぐに黙った。使えにゃー。

「補佐といえども特権がつくんだ、んなホイホイ増やすワケいかねぇんだよ」

代わりに会長が説明。
特権…あんまり知らないけども、確か授業をいくら休んでもよし、食堂の優先使用権…その他もろもろあったような…なかったような…?

「じゃあ、特権つくのは一人でいいからさ!!」

びっくりするくらい清々しく島幸高は言った。確かに、特権は豪華なほどある。でもそれって、それくらい必要って判断されたからでないの?
入学してちょっととはいえ、生徒会の大変さも分かり始めてるこーきくんである。
だってあの鬱陶しい生徒会が仕事ある日は渋々ながらも島幸高から離れるもの!!あの!生徒会が!!

その特権ないって、つまりタダ働き?
しかも生徒会に近づいたって名目で、制裁の危機?

「んだそれ…」

ぽつっと2分の1が呟く。近くだったから聞こえたのはそれだけだったけども、きっと他にもそう呟いた子はいるはず。
そのくらい突拍子もないことを島幸高は言い切った。

まさか、その補佐に柚弦を指名しようと、してる?

その考えにサッと血の気が引いた。
だってそうしたらくっつき放題だもの。一緒にいる言い訳が出来るもの。俺と、引き離せる。おまけに、取り巻きも手放さなくてすむ。

「やだ…」

だ、って、え?だって、俺、さっき思ったばかりだよ?島幸高は傍には来れない、でも俺はいつでも行ける、って。え?

「んー、とりあえず、そのもう一人は誰なの?その子とも相談しなきゃでしょ?」

「大丈夫だって、俺のお願いなんだから!特権なくったって頑張ってくれる!!」

と、自分が特権をなくそうなんて考えは微塵もないままに島幸高は胸を張った。生徒会と常に一緒にいて、その仕事を見てるくせによくそんなことが言えるものだ。
会長たちは、ある意味自分の仕事を否定されてるようなものなのに、島幸高がすきなの?恋は盲目なの?

俺、絶対負けたくにゃー。島幸高には絶対。わがまま言いまくれば、柚弦補佐を阻止できるかもしれにゃー。なんたって、クラスは俺の方の味方だしねえ!!

むんっと全身からやる気出した俺を、島幸高は見て―――


「晃希!!!」


そのまま俺を指さした。

「……はっ?」

今度こそクラス全員が疑問を口から吐き出した。

「…え?え?」

いや待て待て待て?なに?晃希って。なんで島幸高は俺見て俺指さして俺の名前言うの?なんなの?やる気メラメラしてた俺がそんなにイケメンだったの?

「俺、晃希と生徒会補佐やりたい!!」

「あ、ほんと〜?ネコちゃんなら俺もいーかなー☆」

オイ会計☆うにゃい。全然よくにゃー!!

みんなが混乱してるうちにどんどん話を進める島幸高と会計。え?そういう作戦?相談しなきゃって言ってたの会計だよねえ?俺の意思は?ねえねえ?

クラスみんなが心配気な顔を俺に向ける中、一人が手をあげる。

「はい、そこの君っ!」

会計に促されて、彼は立ち上がる。

「高南って、本気ですか?あいつ外部生ですよ、まだこの学園に慣れてもいないのに、生徒会なんて出来るわけないと思うんですが」

お前いいやつ!!!その通りである!というか会長止めてよ!そういう役割会長のはずだよねえ!!!

「晃希馬鹿にすんなよ!!!」

いやそこに食いつかれても。別に馬鹿にされたなんて思ってにゃー。自分に出来ることと出来ないこと判断できないのよりマシでっすよ。


「うっせぇな、外野がわめくな。まず高南はどうなんだよ」

会長が一言口をはさむと、俺を弁護してくれた子も流石に席に座った。流石は会長、正論だ。

庇ってくれた彼にお礼を言いつつ、席を立つ。

「…俺、ここ来たばっかだし、自分のことで精一杯だし、」

うん、島幸高、そんな期待の目で見られてもこーきくん困っちゃう。
正直に無理だよ〜って伝えようとすると、それがわかったのか島幸高が俺の台詞を遮った。

「晃希が無理なら柚弦に頼む!!」

「ほえっ!?」

突然の指名に柚弦が奇声をあげた。
え、かわいい。すごいかわいい。素でほえっとか言っちゃう柚弦かわいい。そのあと照れてるのもかわいい。

いや、かわいいとか言ってる場合でにゃー!!

「柚弦こそだめでしょ!展覧会あるって言ってるでしょうがおバカさん!!」

びっくりしてる柚弦に変わって俺が怒ると、同じく柚弦かわいいとか思ってたであろう島幸高が反論した。

「展覧会ぐらい、生徒会から言えばなんとかなるだろ!!!」

「はああ!?」

なに、本気で言ってる?本気で言ってるの?柚弦が部活朝も頑張ってるの知ってて。柚弦が描いた絵欲しいとか言ったくせして。
だいすきな柚弦が頑張ってるものを、「ぐらい」とか、言っちゃう?

「島ゆき、」

「それは困るよ」

俺が怒る前に、柚弦が立ち上がった。

「柚弦」

「展覧会は、俺ら美術部の大事な発表の場だし。お世話になってる人に感謝を表す場でもあるし。大体一年の俺が、忙しくて作品なし、とか、そんな先輩に失礼なこと出来ない」

「でも、そういうのは生徒会からちゃんと説明すれば、」

「………」

島幸高に食い下がられて、きゅっと困ったように眉間に皺が寄った。珍しい柚弦のそんな表情。
島幸高を見て、それから俺を見て。

ぎゅ、と柚弦が手を握りしめたのを見て、俺は柚弦がなんて言うのか分かった。
だからこそ。

「わかっ、」

「はい!!はいはーい!こーきくん補佐やるう!!」


言い切る前に、手をあげた。

絶対、言うと思った、やるって。
展覧会捨てても、頷くんだろうなって。

優しいんだもの、柚弦は。

絵がだいすきでだいすきで、頑張ってるくせに。先輩がどうとか以前に柚弦自身が展覧会に絵出したいくせに。なのに、断ったら俺になっちゃうって、そう思って頷こうとしちゃうんだから、まったく。

俺が絵出したいんだ、って言ったら、島幸高は諦めるはず、そんなの柚弦だって流石にわかるはずなのに、私情だからって、一言も出さないで。
男前で。優しくて。カッコよくて。

感謝とか先輩とか、口に出す心配事はまずそれなんだね。

でもそんなの晃希くんが許さないぬ。

だって、俺は柚弦がすきだからね。柚弦が隠した気持ちもわかるからね。俺だって柚弦を守りたいからね。

「俺補佐やる」

「晃希、それでいいの」

「うん」

「…わかった、じゃあ、応援する」

柚弦は俺を止めなかった。それが嬉しい。とか。ほんとに柚弦がすきだなあ。
でも恋する乙女じゃないから、自分でやるって言ったこと、投げやりにしない。必要以上に守られたくもない。

恋する男の子だもの。

「まあ任せたまえよ!!」

「じゃあ決定だな!!俺と晃希が生徒会補佐!」

相変わらず場違いな明るさで喜ぶ島幸高が、ちょっと恐ろしい。
今の、ただの島幸高のわがままでそうなったの?それとも計算?自分が愛されたいという欲求に対しては頭の良いライバル。
単純に柚弦を補佐にしたいなら、最初からそう言ってしまえばよい。そしたら俺は口出しできにゃー。

最初から、俺を補佐にするつもりだった?
断らせないために柚弦を引き合いにだしたの?柚弦の優しさを知ってるなら、上手くいけば柚弦を補佐に出来るし、ああいえば俺が動かないはずはにゃー。今までもそうして邪魔してきたんだもの。

もちろん柚弦が補佐ならラブラブできる。そして俺が補佐になったら………制裁?とか?
食堂行っただけで面倒くさいことになりかけたんだもの。今度は守ってくれる柚弦はいない。
俺と柚弦を引き離した挙句、手は汚さずに俺イジメが達成されるよ~ってことでっすよ。

しかも、指名されて渋々、じゃなくて、俺、立候補っぽい形で引き受けた。余計嫉妬されるヨカン☆


まあ、勝手にそう考えてみただけだけどねえ!!
ただのわがままおバカさんって可能性も十分あるけどねえ!!

もう仕方ないよねえ!!

俺が開き直ってると、そんなこと一切気にかけない仕事仲間。

「まあ顧問に聞いてみますかね☆」

「つかあいつ、丁度ここの担任だろ」


顧問って、俺様せんせーか、だるう。



prev | next


back main top
 
×
「#寸止め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -