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「おー、なんだお前らも捕まっ、た…か…」

「佐久間」

鼻水ずるずるの俺とそんな俺を慰めて歩く柚弦を、ずるずると先輩が引きつれて、捕まった人がとどまる体育館へ。

わらわらと捕まった人がたむろしてる中で2分の1がいち早く俺らに気付いたけども、この微妙な空気に思いっきり戸惑っております。と、鼻水ずるずるの俺が実況してみます。

「…2分の1もう捕まってるとか…ださ…」

「泣きながらも罵られた!?」

そしてそれでもリアクションをしてくれる2分の1。ちくせういいやつめ…。ずっと頭撫でてくれる柚弦の次にいいやつめ…。

「ほら、唯一の美点、整った顔がぐちゃぐちゃだぞ」

と、なぜかティッシュを持ってる2分の1が、ほい、と俺の鼻に押し当ててくる。地味に優しい手つきである。
俺は女子か。
でも「唯一」とか言うからお礼なんて言ってあげないんだからね!

「佐久間、ありがと」

ずびずびと鼻をすすってる俺の代わりに、柚弦がぺこりとお辞儀。変なとこで律儀なゆづるん、まるでお母さんだよ…。
ちなみに柚弦も俺も男の子らしくティッシュなんて日頃は持ち歩いていなかったのでした、てへ。

「おう、鼻かめば落ちつくだろ。…柚弦もそんな顔してんなよ」

「ん、」

むぎゅ、と2分の1が柚弦の頬をつねっ、…つね、つねったぁああああ!!!

「あぁあああ!!2分の1が!!2分の1がいじめてる!!ゆづるんのほっぺた!!うわああああ!!」

「泣かれた!?」

「う、ぅうう…」

だって、ゆづるんのほっぺた。俺も、ぎゅってしたことにゃー。
柚弦のほっぺた。俺のだいすきな柚弦の。それでも俺のものにはなってくれない柚弦の。

「…うぇ…、…」

ぐしぐしと目元をこする俺を見かねて、2分の1がひょいっと俺の襟首をつかんだ。間違いなく動物扱いですどうもありがとうございます…。

「ちょっとここじゃ目立つから、向こうで落ち着かせてくる」

「うぎゅ」

言われてみれば、もう終了10分前とかで。ほとんどの生徒がここにいるから、こんな大声で叫んでたら目立つどころじゃなかった。なにあれ修羅場?的な目線がびしばし来ております、体育館も普通の学校より馬鹿でかくて良かったね、俺…。普通サイズじゃもうみんなに広まっちゃうね…。

「柚弦、時間微妙だし、どんくらい時間かかるかわかんないからさ、」

「うん、わかってる、俺は待ってるから」

「おう、なんかあったらよろしくな」

「うん、おねがい」

…いや、まあ、いつまでもぴーぴー俺が泣いてるからなんですけども。
言葉数少なくてもさらりと意思疎通しちゃうなんてとか、ずっと柚弦とこの学園にいて同室者の2分の1にでさえも嫉妬しちゃったりして。

「…ちくせう…2分の1め……」

「はいはい行くぞー」

「はいはいどうぞ連れていきたまえよ…」

「オイ歩け」

もうやだ。たるくて前進めにゃー。

「つれてって」

ぐだぁと2分の1につかまって、ずるずる引っ張られる俺。
俺ってスキンシップ激しいとか思われてるけども、こうして柚弦以外にべったりするのはきっと初めてだ。

「成長期うらやましいぬ…」

俺とおんなじくらいの背丈の柚弦とは違って。
背もちょっと高いし、地味に筋肉ついてるし、べったりするのには2分の1の方が頼りがいはあるんだけども。

「お前も肉食え肉」

「たべてるよう」

でもやっぱり傍にいたいのは、べたべたしたいのは、柚弦なんだもの。無理と言われても、何度泣いても、諦めるとかそんなこと、思えないんだもの。


「で、どうしたよ」

連れてこられたよくわかんない庭っぽいところ。泣いてる俺に地味に優しくしてくれると思いきや、ベンチじゃなくて普通に地べたに座るよう促されました。…これだから2分の1はモテないんだぬ。

…俺も、モテないけどねっ……たった一人すら振り向かせられないからねっ…!
べつに、悲しくなんてないんだから、ねっ……!…ね………っ…。ね……。


「振られたか?」

「直球ぅううう!!」

どう考えても追い打ちです、だから2分の1ってモテないんだよぅうう!!!
ぼたぼたと落ちる涙を一生懸命拭いながらの会話。…これ傍目から見たら俺と2分の1の別れ話だよね…不本意すぎてちょっと涙止まってきたや……。


「お前ら行くとき楽しげにしてたじゃん」

「うん、楽しげにね。してたよ」

「そんでノリで言っちゃったとか?」

「言ってにゃー」

「あ?じゃあなんで、」

「ただたんに、叶わないなぁ、って痛感しちゃっただけでっすよ」

「……仲良く、いい感じに一緒にいただろ?島が来てなんかクラスこんがらがっちゃったけどよ、」

一生懸命励まそうとしてくれる2分の1に、頬が緩む。
ちょっとだけ、復活。そう、痛感しちゃっただけなのです。前の、俺様せんせーが柚弦にいらんこと吹き込んだときもそうだけども。泣きたくなっちゃうだけだもの、一番になりたくて、でもなれなくて、それが辛くて悲しくてどうしたらいいかわかんなくて、でも、そんな相手に会えたことが、嬉しくて幸せで。それを、痛感するんだよ。

もう自分でもどうしてなのかわかんないくらい感情が入り混じっちゃって、ただ、思いっきり泣きたかっただけ。

柚弦は俺を、「金色だねー、タンポポみたいだねー」って言うけれど。
こんなぐっちゃぐちゃにこんがらがった感情を、柚弦は何色で描くのかなあ。黒も青もピンクも緑も、もっともっといっぱいの、俺の全部を。


「晃希?」

「2分の1はおばかさんでっすよねぇ」

「オイ」

「人間関係は一方的には作れないんでっすよ」

「それはちょっと俺を馬鹿にしすぎではなかろうか」

なんであろう、その口調は。きりっとした表情やめてください、柚弦みたいにかっこよくないんだから。

「ちゃんと裏を読んでからキリッとしてください2分の1さん」

「あ、ごめんなさい」

「だからね、仲良くみえるのは、柚弦がそう望んでるってことなんだよ」

ああ、なるほど、とようやく2分の1は真面目に頷いた。

「俺はね、柚弦の一番近くにいれる恋人であれたらいいって思うよ。でも、柚弦はそうじゃないから。柚弦が俺に求めてるのは友情だから」

柚弦がさっきあんなこと言ったのは、きっと、島幸高のことで喧嘩する生徒会を見たからだ。俺は来たばっかりだから、あんまり思い入れもないけれども。生徒会はみんなのアイドルで、きっとずっとこの学園にいる人にとっては長年憧れの的で。自分たちを仕切ってくれる、すごい人たちだったんだ。歓迎会でも、ノリの良い会計が壇上に立ったように、お互いきちんと仕事を分け合う仲なんだ。
それを知ってるからこそ、その人たちが「恋」というもので険悪になってしまうことが、柚弦は嫌だったん、だろうね。

「じゃあどうすんだよ」

と、慰め役が投げやりになり始めた、ねえちょっと?

「そこまでわかってんだったら、諦めた方がいいんじゃねぇの」

「なんで?」

びっくりして聞いたらびっくりした顔が返ってきた。

「だって、また泣くぜ?無理かもって、お前が何回も感じてんだろ?」

うむ。まあそうですけども。
ずびりともう一回鼻をすすって立ち上がる。

「泣くとか泣かないとか、そんなの関係にゃー」

会計も確か、似たようなことを言ったね。どうせ泣くんだから諦めろって。でもそれはやっぱり無理だよ。

俺に合わせて立ち上がった2分の1の背中を押す。早く柚弦のとこ戻りたいもの。いつまでも2分の1と二人とかうっへぇ。

「おい、晃希、」

「だって俺は諦めたいとか、全然思ってにゃー。俺は柚弦がすき。ずっとすき。会ったその時からきっとすき」

2分の1の背中を押すのをやめて、ひょこっと2分の1の前に出る。

「それだけすきな人がいて、俺がただ泣いてるだけだと思うの?それしきのことで、めげちゃうとでも思ってるの」

めげないって、決めたんだもの。こうやって泣くだろうなあって、わかっていても。
目はまだ赤くて、鼻もずびずびで、涙で頬がちょっとパリッとしてるけども、本日こーきくん最大級の決め顔を、もったいないけど、2分の1に捧げてやろうず。

「俺だって男の子だよ、おおかみだよ」

そりゃムキムキマッチョじゃないし、背も普通くらいだけど。


「にゃーにゃー可愛いねなんて、舐めてんなよ」


びしぃっと2分の1に指を突き付ける。

そう、ライバルがどうとかそんなの考えるのはもうやめた。柚弦がどうとかも、もう多分気にしてられないよ。転校生みたいに考えなしになっちゃうかもだよ。………や、でも流石にあそこまで自己中にはなりたくないけれども。

友達にはなれないって言ったら、きっと柚弦を傷つけちゃうね。泣かせちゃうね。
でも、俺も多分、今日みたいにこれからも柚弦に泣かされる。辛いなぁって思わされる。
だからもう、一緒に泣こ?泣いて泣いて、その涙に溺れたってよいよ、一緒に溺れよう。
だから。


「柚弦落とします」


前に泣きそうになったときも、絶対恋人ポジげっとするって決意したのに、全然進展できない俺。どころか、島幸高に振り回されてばっかりで、情けなくて。
だからちゃんと、今度は声に出して宣誓、してみちゃったりして。
俺は、柚弦の傍にいるだけじゃなくて、傍に居続けるための努力をしなきゃなの。
島幸高に振り回されるんじゃなくって、柚弦の顔色ばっか伺うんじゃなくって。
今までみたいのじゃ、だめなんだ、ぜんぜん。

「…お前って、」

ぽかん、とあほ丸出しな顔をして2分の1が一言。


「ドM?」

「台無しだよ!!」

「…わぁったよ」

「むきゅ」

ぐりぐりと俺の頭を撫でて、仕方ねぇなあ、と2分の1が笑った。頼れる兄貴感を突如として出してきたうにゃい。

「まあ頑張れ、相談役くらいはやってやる」

「いや別に」

「それくらいはやらせろよ!!!混ぜろよ!俺も混ぜろよ…!!!」

うん、やっぱり2分の1は頼りにゃー。2分の1の代名詞といえば頼りないだもの。うん。


「ああ、じゃあこれだけ一応言っとくけど」

ぽむ、と手を打って、構ってほしいオーラ全開の2分の1が何故か決め顔。

「柚弦も、温和だしいつも笑ってるけど、相当な男前だぜ?」

「知ってますけどなにか」

というかその内容でなんで2分の1が威張るの?



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