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ぽろりん、と音が鳴って記号が配布されたのはすぐのことだった。機械の画面上にぴょこっと「☆」マークが出てきたうおおすごい!!お金かかってるっぽい!!けど☆見るとうにゃい会計思い出しちゃうからなんだかイラッとしますねえ。

「こーきこーきっ、記号なんだった?」

きらきら輝く瞳で聞いてくるゆづるん。かわいい。…もう俺かわいいしか言ってにゃー!!!なんてこと!

「こーき?」

「あっ、星!星マークでっすよ!!割と有名な記号でつまんないぬ…」

だって生徒いっぱいいるから、星とかハートじゃ絶対足りないもの…ギリシャ語とかロシア語とかわけわかんないの当たったらどうしようかねえってちょっと期待してたのに。

「星?へえ、そういう普通のもあるんだ?」

「ぬーん」

ゆづるんにも逆に驚かれる切なさ。というかというか、反応から伺うに柚弦は星じゃにゃー…。うう、運命の相手なのに…ここで一緒になっちゃうかもって、期待してたのに…。もう期待外れっぱなしで泣きたくなっちゃいます。

「俺のねー、なんか読めないんだけど、なんだろうコレ。あはは、コレどうやって探そう?」

しかも柚弦は普通に楽しそうでっすよ。俺と記号一緒になるとか微塵も期待してない感じでっすよ。さっきまで猛烈に楽しかったのに、ゆづるんと記号違うやーってなった瞬間、なんだか我に返りました。もう!こーきくんたら素直☆

「柚弦、どんなのー?」

でも柚弦の手前つまんない〜って文句言うわけにもいかなくて、内心へこんだまま柚弦の画面を覗き込む。
けど素直な俺の足は「あきたよ〜」て地面にぐりぐり書いてました実は実は。

「んっとねー、Aの上に〇がついてるこれでね、」

「おお、オングストローム」

動物の鼻と口っぽいやつ。Å。

ふむふむ、これ顔文字に使われはじめてからなんか可愛く見えるよねえ…。流石柚弦、類友!!かわいい!!!記号もなんとなく可愛いよう!!

ふむふむ、なるほどぉって真剣に頷いてると、柚弦のぽけっとした視線に気づいた。

「なんだろうゆづるん」

「もう一回お願いします」

「?オングストローム」

「ロングストローク?」

「水泳じゃないんですけれども」

「ごめんなさい。もう一回お願いします」

「オングストローム」

「おんぐすとりょッ、…」

噛んだ。柚弦が。噛んだ。
柚弦が!噛んだ!たどたどしい上に噛んだ!!たいして長くない単語で噛んだ!!
噛んだあああああ!!!

「噛んだ?ねえねえ噛んだの?今噛んだの?」

「いや、あの、」

「あれ?あれれ?今思いっきり噛んだ?可愛い路線なの?可愛いを極めるの?もうっ、ゆーづーるっ、かーわーいーいー!!」

「もう…勘弁…してください…あの…ほんとに……ごめん、なんか怒ってる?」

うひょ。

うにゃいテンションで柚弦に絡んだら謝らせてしまった…。つい可愛いって言えるのが嬉しくてべたべたつっこんだら謝らせてしまったぬ。

「怒ってにゃー。寂しかっただけです。ゆづるんと一緒の記号でなくて寂しかっただけです」

申し訳ないのでデレてみました。別に柚弦相手にそうツンもしてないけれども、デレてみました。

「一緒だったらペア1号とかだったかもしんないのにね。無料券への道がね…」

「…うん」

普通に返された…。しかもなまじニコニコしてるからうううう可愛いようなんで今日もそんなにイッケメーンなのーーってなっちゃうんだぬ、もうなんだこれは!!惚れたが負けですか!!

ちくせーう!って抱き着こうとしたらぱしっと腕をとられた。

「ぬ?」

「そろそろ、逃げないとまずいかも」

あは、と柚弦が笑って俺の腕をひいた瞬間。


「オーイ!!1年いたぞーーーー!!!!」

「っぎゃーーーー!!!来たー!!!鬼来たー!!」

「あはっ、あははは、見つかっちゃった、やばーッ!」

物凄い形相で3年の先輩が追ってくる。なにこれ!恐怖だよ!!とんでもない恐怖だよ!!そりゃ大きくなったら鬼ごっこから卒業するはずだよ、顔怖いもの!!般若が後ろをついてくるんだもの!!ちっちゃい頃の可愛らしさだから許されてたんだよ!!


「待て一年ー!!!特に峯ぇええ!!!」

「ちょっ、と、先輩、名指しはキツイっす、後輩には手加減して、くださっ、あははは!!!」

「笑うなー!!俺バカにしてんのか峯!」

「ち、ちがっ、楽しくて、あはは、おなか痛いーっ!」

笑いが止まらないのかおなか押さえて走りながら、「部活のね、先輩なんだよね」と息も絶え絶えに教えてくれる。
…いや別に。嫉妬なんてしてないですし。俺の知らない人と仲良しだあとか嫉妬なんてしてないですし。転校してきた時点で、周りに遅れをとってることくらい知ってますし。嫉妬なんてしてないですし。

「あ、ゆづるんこっち!」

「え、うわっ!」

よいしょーと柚弦の先輩から柚弦を奪い返すように(いやだから嫉妬なんてしてないですし)、柚弦の腕を引っ張って方今転換をすると、あまりの急さについてこれなかった先輩は標的を変えたらしい、そのまままっすぐ走っていった。

「ふぇー、危機一髪う…」

「あは、あはは、うわー、捕まるかと思ったー…!こーきありがと」

ピースとともに笑顔ひとつ。
うん。
やっぱり楽しいです、この行事。

息を整えてから、今度はパートナー探し。みんなも必死でパートナーさがしてるらしく、そこらで「だからあ!このマーク!!」「遠くて見えねー!!」「アポっ、アポストロフィー!」「ビックリマーク!!ビックリマークは!?ねえ!」「ネコ!ネコのやつ!!…あ、いや、そういう意味じゃなくて!!」っていう叫びが響く。ちなみにそれで鬼に居場所もバレるという命を懸けた行動でっすよ。

まあかくいう俺たちも人と会う度、「記号は!?」って聞きあってる。柚弦は焦ってるからかたびたび噛んで相手と一緒に笑ってた、なにそれもう可愛い。今日のゆづるん可愛さのバーゲンセール。

1,2年も関係なく血走った目で探してるから、もう人見知りとか気にしてられないみたいだし、先輩だからって構えずに会話できる。話す内容も共通してるから、会話に困ることも沈黙に困ることもなくたくさんの人と話せる。
うむう、柚弦への愛で決めたとはいえ、なかなか良い案だぬ(自画自賛)。


さて開始から45分。逃げ切る時間は1時間半だから、これでようやく半分。まだパートナーは俺も柚弦も見つかってにゃー。

「時間長いぃいい!!」

機械確認すると捕まった人も大体半分くらい。いいペースっていえばそうなのかもだけれども、鬼ごっこって意外とね、精神的にクるものがあるよね!!

へとへとになったころ、ぴんぽんぱんぽーんと軽い音楽。
会計の特に何の役にも立たない、実況だ。

『はーい☆みんな〜調子はどう?ちょうど残り時間も半分、生き残ってる子たちは頑張ってね☆』

「うわおう、うにゃい!」

今疲れてるから余計にイラッてくるものがありまっすよ。

『ちなみに!パートナー見つけたとこが一組出ました!!はいっ拍手〜☆頑張れば会えるからね!めげずに探してよ!』

へえ、見つかったんだ、って素直に拍手してる柚弦とは反対に俺のテンションは急降下。

見つかった人、いるんだあ…。うう。ううう…俺も、柚弦とパートナーが良かったのに…出来すぎだけど、柚弦となら一緒かもって、ほんとにほんとに楽しみにしてたのに…これでもし柚弦と島幸高が、一緒だったりしたら、………。


島幸高と、いえば。

まだ一回も、遭遇してない。島幸高どころか、取り巻きも生徒会も。不思議なくらい平和だ。そりゃもちろん、会う確率の方が低いんだろうけれども。

…明らかに、学園の雰囲気は悪くなってて。島幸高への風当たりも弱まってはいなくて、そんな時にこの新入生歓迎会って、島幸高ぼっこぼこにしてやんよ!て人たちには絶好の機会じゃないかぬ?

「こーき?」

首を傾げた柚弦が黙ったままの俺の視線を辿る。

会計が主体になってるのも。他のメンバーが島幸高の問題にかかわってるから?

…でも、そうでも。俺にやれることは何もない。だってだって俺はただの一般生徒で。柚弦が好きなだけのただの16歳で。

だから、たとえ親衛隊らしきミニわんこたちが、固まって森の方へ行ってるの見たって、出来ることはない。それが島幸高と関わりがあると決まったわけでもないし、でも。

「…こーき、あれって…」

「大丈夫だよう、柚弦」

でも柚弦は行こうとするんだね。

「けど、何かあってからじゃ遅いし…あそこって元々立ち入り禁止だろ?」

「見回りの人だっているよ」

向かおうとする柚弦の服の裾を掴んで止める。掴んでないと柚弦はすぐどっかに行っちゃうんだから。
俺を置いて。

「こんなとこまでは流石にいないよ。もし幸高になんかあったら、」

「なんで!」

つい、声が大きくなった。ずっと今日は柚弦の傍にいれて楽しかったのに、一気に泣きそうになる。
名前で呼べって島幸高に言われてから、柚弦はちゃんとそう呼ぶ。名前で呼ぶ。

「なんで、行くの?だって柚弦、別に強いわけじゃないし、守れるわけじゃないし、」

「うん、でも、」

「嫌な思いだって、するのは柚弦じゃん!!」


島幸高と関わって。
取り巻きに睨まれたり、喧嘩巻き込まれたり、傷ついたくせして、それでもなんで行こうとするの。笑い上戸の柚弦が無理して笑っちゃうくらい、嫌なことばっかりだったのに。

「そーいう優しさはいいよう。ダメだよう…」

「…でも、やっぱり見捨てらんないよ、クラスメイトだし。今、俺らしかいないじゃん?」

「やだ!行かなくていいの!!」

まるで駄々をこねる子ども。かっこわるい。だって行ったら、柚弦はまたきっと傷つくよ。島幸高はもっと、柚弦をすきに、なっちゃうよ。

「晃希」

「島幸高守ってくれるひとならいっぱいいるの、柚弦も知ってるじゃん!」

ずるいずるい。曖昧な態度でうやむやにしてるくせに、ちやほやされて、その上柚弦までとっちゃうの。俺はひたすら柚弦だけを見てるのに。

柚弦はいつも俺を守ってくれる。
島幸高にぐさぐさ言われたときも、食堂で騒ぎになりそうだったときも、いつもいつだって。
避けることしか知らない俺の幼稚な守り方じゃなくて、優しくふわっと簡単に。

なのに柚弦は守らせてくれにゃー。にこにこして柔らかいのに、変なとこ男前だから。でも。


「俺だって、柚弦守りたいの!!!」


ぐわあって怒鳴った、ら、こたえるように、遠くから響く大声。

「なーあー!!!!アスタリスクーーー!!!アスタリスクのやつはー!!?おーい、この俺が探してるんだぞーー!!!」

「待てって、幸高、ちょっと、休憩しようぜー!三鷹げっそりしてるー!」

「余計なこと………言って、んなッ…!!!」


ズドドドドドドドド。

と、視線の先でなかなか聞かない音を立てて、見覚えのある集団が通り過ぎていく。

「………ね、ゆづるん」

それを見送って。

「いっぱいいるでしょ?」

「…うん、そうですね………」

「まったく、ヒーローになれると思ったら大間違いですよ、俺らは所詮脇役なんですからね」

「はいごめんなさい…でも、人生は誰もが主役なん、」

「はいはい、走りますよ」

「………はい」



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