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それから、生徒会の皆様がクラスにやってくることはなかった。
高橋がうまく説得してるのか、確率は低いけれども、会計がうまくやってるのか。
まあそもそも、生徒会の皆様がこんな普通のクラスに乗り込んでくること自体が有り得ないんだけどもねえ…。


島幸高。その程度の有り得なさなら実現させる影響力の持ち主。強敵すぎるライバルだぬ…。

ただ、島幸高を避けるのは前よりも簡単になった、なぜなら。


「おーい、柚弦、晃希、お昼一緒にたべ、」

「うっおーい、島、俺らと食おうぜ、ちょっと数学聞きたいことあってよー!!」

島幸高を俺と柚弦に近づけないようにする動きがクラスでも目立ってきたからだ。
島幸高が話しかけてこようとするのをことごとく遮ってくれる。

島幸高的にも、構ってもらえるのは嬉しい模様。「えー、仕方ないなあ」とか言いながらそっちに流れてくれまっすよ。
ふむ、まだまだライバルも甘さが残っているというところ。

取り巻きたちも、前までは警戒心ばっりばりだったけども、柚弦と絡むよりはいいかという(高橋の)判断でそれを黙認。ただ一匹狼三鷹はちょっと頭おばかさんだから、いちいち睨み利かせて高橋に怒られてる、ざまあ。

そんなわけで、ちょっとぎすぎすした緊張感を持ちつつも何事もなく…何事も、なく…新入生歓迎会の日を迎えたわけであります。


「よーし、ゆづるん逃げるにゃー!!」

「逃げるにゃー!ってこーき、このフレーズ気に入ったの?」

会計にダメだしされたって柚弦がにこにこしてるからよいのです。
ちなみにちなみに、逃げるよーっていう意思表明ぶりっこ版のほかに、いつもの口癖とかけて、柚弦逃げないでね、って意味も含んでおります、うへへ。
全然伝わってないけど、うへへへへ。

自分で言って自分で照れちゃうパターン!!


無事イインチョが配ってくれた手のひらサイズの機械を手にぞろぞろとアリーナへ移動する生徒の群れ。

勝ち残った景品が生徒会からのご褒美、もしくは食堂一か月無料券と聞いてみんなやる気満々なのか異様な熱気に包まれてる。

「おお…たのしい……」

この空気感俺すごいすき…。
この、学校行事に燃えちゃう感じ…。
島幸高のこととか島幸高のこととか島幸高のこととか心配事もあるけれども、柚弦と、初めての学校行事。

はじめての。おもいで。

おんなじなのに機械を見せあいながら、うわー緊張するーって2分の1とはしゃいでる柚弦が可愛くて仕方にゃー。まったくこーきくんの運命の相手は輝いちゃうんだからまったくまったく。最近は気を使った笑顔ばっかりだったせいか、無邪気なそれに、クラスの雰囲気もふわっと温まっているのがわかる。

柚弦は、べつに、表だって立つ、そういう高橋みたいなタイプじゃないけれども。
ちんまり俺とか2分の1とかとにこにこしてる、そんな穏やかな子ですけれども。

でもその優しい笑顔はいつだって、みんなに元気あげてるんだ。
ううう、くそう、すきだあ。

「こーきっ、なんか、クラス単位の賞もあるみたい!!それも食堂無料券もらえるんだって!がんばろー!!」

すっごい楽しげ。ほんとに楽しげ。学校行事にこんな喜んでくれるとか、いい生徒の見本だぬ…。共学だったら絶対女子に好かれるタイプだよう…お約束だもんね、男子と女子の対立って…。

「おー!!」

元気よく返事をして、照れ隠しに「まったくお金持ちのくせして無料券にこんなに一生懸命になるとか…」って言ったら、「だってそしたらお菓子いっぱい買えるよ?」って可愛い返事がきたので、つい衝動で2分の1をどついてみた。

あ、島幸高を止めてくれてるみんなありがとう、おかげでこーきくんは幸せな時間を過ごせました……。


「おーい、きみたちー!!準備はいーかー!」

全生徒が集まったアリーナの舞台上、マイクを握って手を振る会計。「おー!!!」とかなんやら雄叫びが返って、今さらながらに、ここが男子校なんだと実感するよう。いつものきゃぴきゃぴ感はどうしたの、ミニわんこたち…。

うにゃいといえども会計は会計で、騒がれても堂々と笑みを浮かべる。

どうやら企画の時点から会計主体となってこの行事をやるらしく、舞台上には会長と会計以外の生徒会役員の姿は見えにゃー。

文字通り、会計の独壇場だった。

「さって、みんなー!説明はもう聞いてるだろうけど、もっかいみんなで確認するよー!」

へらへらりとまとめる気があるのかないのか、ゆるーく説明をしていく会計。「はーい、鬼の子手あげてー」とかもう幼稚園児を相手にするような態度だ。みんなノリノリで手上げてるけど。

「勝つにはー?」
「逃げきるー!!!」
「ほかにー?」
「ペア見つけるー!!!」

え、これ台本?台本なの?みんなすごいやとか見てる俺の方がおかしいの?
って思っちゃうくらいの一体感。
それにしてもここらへんは会計の手腕が発揮されておりますねえ。ちゃらちゃらした不真面目さは、こういう場合副会長とかより適してる。

盛り上がりを静めないように、でも混乱を起こさないように注意事項を伝えて、どうやらその間に風紀委員が、生徒数を把握するために動いてるらしい、腕に腕章つけた生徒が冷静に目を巡らせてる。

ふざけながらもこの人数をまとめきる姿は流石生徒会だ、時折入れてくるウインクがうにゃいけれども。

「時間終了までは適宜生徒会が放送を入れて盛り上げていくからね☆オレの美声に聞きほれてる間に捕まるなよー」

「アホか」

ツッコみを入れるとともに会計からマイクを奪った会長に、場の盛り上がりがピークに達した。

「機械に記号が表示されるのは、鬼がスタートしてから1分後だ。その間に捕まるとかカッコ悪ぃ真似はすんなよ!不正その他の反則事もいただけねえ!!いいな!!」

会計の作ったゆるい雰囲気をふっきるような一喝。一拍おいて、会長がにやりと笑った。


「歓迎会の、始まりだ」

ポーーーンという合図音に、1,2年がばたばたとアリーナを出て学園中に散っていく。広い学園だ、行く場所によって労力もなにも違う。選択一つに勝敗がかかってる。

「ゆづるん、ゆづるん、どこいこー!?」

一斉に駈け出す騒がしさと熱気の中、必死で柚弦に話しかける。

「んー、どーしよ、作戦とか何もないー」

あはは、と軽く言いながら笑う柚弦。

「でも逃げ切る予定?」

「あはは、そりゃ、もち!!」

勝気に笑う柚弦がイケメンでどないせう。さり気なく負けず嫌いなところもかっこいいぬ…。

「ほらこーき、鬼がスタートするまでに出来るだけ遠くいこっ!!」

「うひょ」

楽しむ気満々の柚弦に腕をとられて、引っ張られるように走る。風を切る柚弦の後ろ姿がかっこいいというか、もう無邪気な姿が可愛くて仕方ないというか、もう、学校行事たのしいぬ…。
 
1、2年が逃げて、鬼が追いかけてくるまでは3分の猶予がある。ちゃんと1,2年がばらけるようにするためか、ペア探しに必要となる記号が通信で生徒に送られるまでは、さらに1分。最初の4分が最初の山場だ。

あ、ちなみに俺らは島幸高というもう一人の鬼から逃げてるってことも一応言っておくね。
柚弦は無邪気ににげておりますけども、うまくクラスメイトが動いて島幸高と距離を離すようにしてました、えへへ、こーきくんたら悪い子。

走り続けてしばらくすると、ぴんぽんぱんっと、放送スイッチが入る音が鳴った。学園中に取り付けられたスピーカーによって、どこにいても聞こえるようになっているらしい。(それ以外の深い森の中とかは危ないからって立ち入り禁止になってる)


『はーい☆みんな聞こえてるー?代表して俺が実況しまーっす!さて、ちゃんと逃げた?じゃあ今から、鬼のみなさんもスタートしまーす』


軽い会計の声が響く。同時にポケットに入れてた機械からぴこん、と音が鳴った。

「およ?」

なんであろー?と、柚弦と機械を確認すると。

時間経過と、「鬼 スタート」の文字が画面に。


「か、金かけすぎぃいいいいい!!!」


下に小っちゃくのっている3ケタの数字はおそらく、逃げてる生徒だろう。捕まった人数も出る仕組みらしい。もう2人捕まってるけれども。早すぎるよちゃんと逃げてあげてよ…。これがクラスメイトだったら景品狙ってる2分の1とかにぶん殴られるとこでっすよ。

「これだから金持ちはまったく!!」

無駄に高性能な機械にうりうりと攻撃をしかける。ボタン押すたびに画面が変わって、余計見せつけられるハイスペックっぷり。くっ、ちくせう…!


『あ、みんな、機械の通信上手くいってるー?鬼スタートの知らせとかちゃんと見えてるか確認してねー☆』

「はーい」とか「大丈夫でーす」とか近くにいる生徒がなぜか返事をする。それを聞いて焦ったように柚弦も「あっ、だ、だいじょぶです!」って返事してたなにそれ可愛い。

柚弦が可愛すぎて俺の心臓はだいじょばないけれども、これで歓迎会のりこえられますかねえ。


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