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「なあ、柚弦、マークわかったら一緒に確認しような!ほら、確率低いかもだけど、クラスで一緒ってこともあるかもじゃん!!」

どんどん空気は悪くなってるのに、気にせず柚弦に話かけていく島幸高。

「一緒に逃げたりとかさ、柚弦と一緒だと楽しそうだし!!」

「え、えーと…」

柚弦が生徒会の皆様に睨まれて戸惑ってるのだって、流石の島幸高だってわかるであろーに、どうしてそんなに自分の意見ばっかり通そうとするの。
だめでしょ、柚弦が困ってるでしょ、第一柚弦は俺の運命の相手なんだからねえ!って、そう思うし、そう言っちゃうことだって出来るはずなのに、泣きたさが引っ込まなくて言葉がでない。

どきどきって、してる。
柚弦と笑いあってるときのどきどきじゃなくて、もっと冷たい。
身体から心臓抜き取って投げちゃいたいくらい、重いどきどき。

なんでそんな空気読めないの!っていう島幸高の行動の意図が、わかってしまう。

これはきっと、牽制だ。

この場を利用して、注目されてる中で、「俺は柚弦が好きですー」ってアピール、してる。
俺に、そして、取り巻きや生徒会メンバーに。

しかも、はっきり言葉にしないあたりが、ずるい。

(…強敵だ………)

考えれば考えるたび、島幸高が強くなってく。島幸高のライバルレベルが上がってく。

「気付いてないフリしてるのは、島幸高じゃん……」

思わず口に出た言葉は島幸高の大声でかき消された。

島幸高は、思い込み激しいけど、本当の馬鹿じゃにゃー。向けられる好意をなんとなくわかってる。まあ、あれだけちやほやされたら、気付かない方がおかしいけどもねえ!

わかったうえで、でも、それとなく自分の柚弦への好意を示してる。
そうやって向けられる好意を断って、でも、みんな好きみたいなはっきりしない態度で、今の心地いい関係を維持、しようとしてる。

「ぐぬぬぬぬぬ…」

ぎりぎりと唸ると、横にいる柚弦がぽんぽん、と背中を叩いてくれた。
柚弦が一番大変なくせに。島幸高にわんさか話しかけられて、睨まれちゃって、なのに、横にいる俺の雰囲気を察知してくれる。どしたーって、気にかけてくれる。

優しすぎて、もうすきなのです。

そりゃ島幸高も惚れるわ!って何度逆切れしようかと思ったことか全く。

島幸高がいつ、柚弦への想いを認めたかなんてわからない。俺と喧嘩したときかもしれないし、もしかしたら、取り巻きの柚弦への言葉が島幸高に響いちゃったのかもしれないし。

ただわかるのは、島幸高が柚弦を好きってこと。俺からとっちゃおうって、してること。

俺との一か月の差を埋めるために。

クラスの空気悪くしてまでも、柚弦困らせてまでも、ただひたすらに。

「島幸高!!!」

負けるもんか。
一か月の差だって、そんなの全然ないやって、気付かされたばっかりだけども。

「な、なんだよ、俺がせっかく柚弦と話してたのに、」

「残念ながら柚弦は歓迎会俺と逃げることが決まっております」

俺、自分で言っちゃうけど自慢だけど、こうやっていっぱい考えちゃうタイプ。ちゃんと周りのこと考えちゃうタイプ。
そんな俺と、何も考えず猪突猛進な島幸高、どっちが柚弦にアタックできるかなんて、そりゃもう島幸高の方に決まってるけれども。

「なので諦めてくださいな」

柚弦渡すもんかちくせう。

「だいたい!!島幸高仲良しいっぱいいるんだし!!ほら、この金髪さんとかと一緒に逃げればよいよ!!!」

「こーき、会長3年だから捕まえる方だよ」

「…この腹黒さんとかと一緒に逃げればよいよ!!!」

「こーき、副会長3年だから捕まえる方だよ」

「なんてこったい!!!」

「お前落ち込んでるかと思いきや急になんなの」

うるせぇい高橋。お前ももっと頑張れ。
絶対、島幸高の前では泣かないもの。俺から柚弦とれるかも、なんて、そんなこと絶対思わせてやらないんだからねえ!!

「ともかく俺は柚弦と逃げます。ほら、会計とか島幸高と逃げたそうだよ!」

「え、俺ぇ?」

折角手助けしようとしてあげたのに、ここで巻き込むの勘弁☆みたいな顔してきたうにゃい…。俺の好意が無にされたぬ…。

「えー、こんなチャラ男より」

「僕らの方が良いに決まってる!」

「ていうかそもそも幸高は普通に俺らと逃げるんですけど…他クラスは引っ込んでてもらえません?」

「…お前は別に、いなくていーけど」

「三鷹やっと喋ったと思ったらなんでこっち攻撃してくんの?馬鹿かよ」

なんだこの人たちうるせぇい。

「誰と逃げようがこの俺が秒で捕まえるから関係ねぇよ」

「は?会長頭おかしくなったんですか?僕が捕まえるに決まってるでしょう、このナルシスト」

「んだとこの腹黒」

「無能」

「猫被り」

「無能」

「万年2位」

「無能」

人数が多い上に、みんな自我強いしなんかピリピリしてるから、ばばばっといたる所で喧嘩が起きる。騒ぎに乗じてクラスメイトがぱたぱたと立ち去り始めた。そろそろ他のクラスのホームルームも終わっちゃうものね、賢明な判断だよねえ…。けど巻き込まれた俺たち放置して帰った2分の1は後でとび蹴りします決定です。

「変な人たちに好かれちゃって、」

「幸高がかわいそーっ」

「…………」

「書記サン、睨まれるだけじゃわかんないんすけど、口あるなら喋ってくださいよ」

「うぜぇんだよ性格悪ぃくせに優等生気取りやがって」

「だから三鷹は俺に言うなって、自分だって一匹狼気取ってるくせして」

「つーかガキが喚いてんじゃねぇよ、立場弁えてさっさと失せろ」

「一番脳内お子ちゃまな人が言いますか」

中心でわたわたしてる島幸高の制止の声も聞こえないのかどっろどろだし。仲わるう!!いっつもなんやかんや一緒にいるくせに仲わるう!!むしろなんで同じタイミングで会いに来るんであろー!本当は頭よくないの?集団行動の鑑にでもなりたいの?

帰るに帰れない俺と柚弦の横で会計がにやにやしてる。

「うっわあ泥沼ぁ〜、こっわ〜☆」

うっわあうにゃい☆
こーいう泥沼とか修羅場とかすきそうだもんねえ、性格歪んでるから。

ぽかん、と壮絶な言い争い(ただし低レベル)を見ていた柚弦の腕をちょいちょい、と引っ張る。

「ゆづるん、逃げるにゃ!!」

「なんでかわいこぶったの、可愛くないけど」

「会計うにゃい」

テンションだよ!許せよう。

「ん、でも、これ俺のせいじゃ、」

「柚弦のせいじゃにゃー」

まああえて言うなら、優しすぎるのとかっこよすぎるせいかな、なんてねえ!
そんなふざけてる場合じゃないけれども。

「あの人たちが勝手に喧嘩してるだけだぬ。そういうお年頃です」

「……、…うん」

うう。
まだなんとも言えない顔してたけども、それ以上言い合っても何もならないと判断したのか、こくっと柚弦が頷く。
とりあえずこれだけ言うね、すっごく可愛い。

今のすっごく可愛かった。こくって。空気読めるこーきくんはにやける頬を必死に固めてたけどねえ!偉い!

「じゃ、会計あとよろしく!」

「え〜、めんどー」

「ここでなんもしなかったら会計の存在価値ぜろ……」

「はいはい」

全てを会計に押し付けて柚弦の腕を掴んだままそろりそろりと教室を出る。
途中島幸高がこっちに気づいて、「あ!」って顔したけども、囲まれてる島幸高はこっちまで来れなくて、埋もれてる。

ふっふうざまあ!!

いいもの!ちやほやされるのが手放せないなら、ずるくたって別によいよ。でも、ずっとそのままじゃいられない。本当に柚弦すきなら、いつまでもずるいまんまじゃだめなんだからね!

あっ、でもちょっとはそうやってうだうだしててね…ちょっと予想外に島幸高の威力強くてこーきくんこのままだと負けちゃいそうだからね…悔しいことにねえ…。


「とりあえずゆづるん、逃げた2分の1しばきに行こうよう!!」

「なんでそんなにわくわくして言うのでしょう、こーきさん…」

いや溜まったストレス発散したくて…。巻き込まれたこの気分を2分の1も味わうがよいよ!!

ぷうぷうと頬を膨らませてると、わしゃ、と柚弦が頭を撫でてくれた。

「ぷひゅ」

「無理させちゃってごめんな。ありがと」

うん、大丈夫だぬ。

そういうことを平気な顔してさらっとしちゃう柚弦のおかげで、なんだかこーきくん忍耐力というか自制心、すっごく鍛えられてるから……………。



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