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「よし、お前ら席についてんな?」

入ってくるなり偉そうに言い切った俺様せんせーは、うだうだ遊んでる俺らに気づいたくせになかったことにしてくれました。まあ真面目なゆづるんはいそいそと自分の席に戻ったんだけどもねえ…。席が遠いって不便だよう。早く席替えしないかぬ…。

席決めがクジだろうときっと俺と柚弦は近い席になるもの。だって、運命の相手だからねえ、えへえへ。

「高南、なんか顔気持ち悪いよ?」

罵倒された!恋するこーきくんの表情罵倒された!

俺のいたいけなハートに特大の槍をぶっさしたのは、俺様せんせーに代わって前に出たイインチョ。ちなみに毎回席座れよって言ってくれるのは彼です。
眼鏡っ子だけど、さくっと暴言吐けるくらいの図太い子だよ!イインチョやるくらいだから根は真面目だけど、さくっと暴言吐けるくらいの図太い子だよ!二回言ったのはこーきくん傷ついたからです。


「で、来週にやる新入生歓迎会のことなんだけど」


そんな俺を気にしないで話を進めるイインチョ。なんだか俺様せんせーと同じ匂いしますねえ。ていうかそもそも外部生の俺は、そんな当たり前のように新入生歓迎会なんて言われてもわからぬのだけども(日にちもさっき知ったばっか)、そこらへん何のフォローもしてくれないあたり、図太さが透けてみえるよ。あ、委員長誰もやんないの?じゃあしょーがないから俺やるよ、的なノリでイインチョになったタイプによくあるパターンだよねえ!

とりあえず一生懸命やるけど、別にまとめるの得意なわけじゃないっていうか、正直前出んのはちょっと苦手ぇ、みたいな?

「で、やることは、まあ恒例の鬼ごっこ、です。去年の様子とか先輩から聞いた人もいると思うから、なんとなくはわかると思うけど…」

うん、こーきくん部活とか入ってないからなんの情報もないけどねえ!

唯一あるのは、ご褒美は生徒会頑張っちゃうゾ☆っていう会計からのうにゃい情報。

あと…

「今回は鬼ごっこに新しいルールが追加されて、逃げてる方が自分のパートナーを探すっていうの、やるみたいです、俺もよくわかってないけど」

俺が思いつきで提案したこれだ。

本当に採用しちゃうんだからすごいよねえ、なんていうか会計の発案力のなさが。

「おーい、イインチョ、探すってどうやってだよ?逃げんのって1、2年全員だろ?」

「よくぞ聞いてくれましたー」

ぶんぶんと手を振って質問した2分の1イケメンにうきうきとイインチョが眼鏡を押し上げた。

「なんと今回これを使いまーす」

じゃーんと小さく効果音をつけながらイインチョが出したのは、カードサイズの……うん?機械?

ほとんどが画面で、下に3つ小さなボタンがついてる。

「あ?なんだそれ?」

クラス全員の気持ちを代弁して首を傾げた2分の1に、イインチョがにやあと笑って3つのボタンのうち真ん中を押す。

すると真っ黒だった画面が光って、パッとハテナマークが表れた。

「えっと、これ一人一個配るんだけど、それぞれの画面に違う記号が出る仕組みになってます。これはハテナだけど、多分別のはビックリマークとかアットマークとか…まあ、いろいろね、出るっぽい」

すごくねすごくね?って機械見せてくれるのは有難いけど説明曖昧すぎでは?

ていうか!俺的にはね!数字札とか配るのかなあって思ってたわけでっすよ!それが…機械、だ、と…!?これだから金持ち学校は!しかも一人一個配るとか、これだから金持ち学校は!なんだか次元が違うよ!こんなとこまで情報化の時代でっすよ…!!

「で、えーと、この記号は生徒会の方のパソコンで管理してて、同じ記号の人が3〜4ずつ出るようになってる。ここまで言えばもうわかると思うんだけど、鬼から逃げる俺らは自分と同じ記号持った人探すってわけ。逃げ切らなくても、見つけた時点で勝ち、賞品がもらえまーす。同じ記号持った人同士だとコレ通信可能になるからね。そのデータが生徒会のパソコンに送られるようになってるから、出会ったら必ず通信するように!」

しかも通信機能とか!!データ送れるとか!!

金持ちが遊びに真剣になるとこうなるのかあ!たかだか歓迎会のためにこの機械作ったのかあ!

なにそれすごい!金持ちすごい!!

「しかもこれだけじゃない!」

「なんだとう!?」

うおおしまった、ついイインチョに乗せられて大きなリアクションしちゃったぬ。イインチョ、そんな嬉しそうな顔されてもこーきくん困っちゃう。

「じつは、この一番左のボタン、シャッフル機能になっててね…同じ時間帯で押した人同士でランダムに記号を交換できるようになってまーす。ただしできるのは一回だけ!タイミングをしっかり見計らって使ってね!」

機械すごおおお!

ていうか短い期間でこれ1、2年分計400個作っちゃうあたりがすごいよねえ。

こういうところに…高い高い学費が使われるのかあ…。

思わず遠い目しちゃったぬ、こういうとこ、こーきくん庶民ぽさが抜けませぬなあ…。いやまあ庶民なんだけども!意外とお金ため込んでたタイプの庶民でっすよ。

「まあ、これは来週やる前に配ります。なくされちゃうと困るからねー。ないと思うけど、改造とかあったら困るし!てなわけで、もし来週俺配り忘れてたら、おいおいって誰かツッコんでね、よろしくー」

とかなんとか、最後に自分を下げることにより笑いを生み出すという、前に立つの実は苦手ぇ、な子に有りがちなネタで締めくくったイインチョが席に戻るのは確認して、俺様せんせーは「じゃあ解散」と一言告げた。

明らかに職務怠慢だった。

しかも真っ先に教室出て行ったよ!そのくせまた島幸高にウインクしていったよ!今度は島幸高もちゃんと見てた。そしてなぜか赤くなる島幸高。顔が良いって得だよねえ…。

それにしても、島幸高の反応もよくわからにゃー。男は恋愛対象じゃないって言う割には、無駄に、そんで誰に対しても赤くなるのねえ。

それが可愛いって、生徒会の皆様始め島幸高ラブな人たちは言うのだけども。

ふぅうううん?て、俺は思っちゃうけどねえ。

「ルール追加だって、おもしろそー」

せんせーがいなくなったのを確認して、にこにこしながら柚弦がやってくる。

そんな柚弦に向けて、さっきの俺様せんせーみたいにウインクかましてみました。

一瞬え?って顔したけど、すぐにウインク+ピースで返してくれました可愛い。

その一部始終を見てた2分の1もウインクをしてみせて、それに柚弦は今度こそ、はあ?って顔を返した可愛い。そのあとすぐ笑っちゃうの可愛い。

でも、普通こうだよねえって、こーきくん思うのでっすよ。

島幸高は受け取ってるだけだもの。

柚弦のように、真似して返したり、いろんな反応したりじゃなくて、みーんな同じ反応する。

鬘と眼鏡でよく見えないけど、嬉しそうにはにかむって、それはそれでいいのかもだけど、いつでも何してもそれだったら、なんか、いやになっちゃうよねえ。

ゲームの、キャラクターみたい。で、きもちわるい。

こーきくんが柚弦と話してたら絶対大声で割り込む、とか。

同じコマンドには同じセリフ。同じ表情。そんな感じ。理想のリアクションをひたすら演じているというか。

よくそれで、みんな恋し続けられるよねえ。

だからこそ、生徒会の皆様は何で島幸高すきなのって聞いて回りたいの。

会計は、それ親衛隊と同じだって言ったけど、俺のはそんな強い恋心故じゃなくて、きっとただの興味だ。学園でちやほやされる生徒会の心を動かすのはなんなのかなあって。

むにょーんと頬を引っ張りながらうだうだ考えてた俺の耳にぱたぱたと廊下を歩く足音が届く。

それはおそらくこの教室に向かってるようで。うん、いつものごとくやな予感しかしない。

こういうのあれだよね、なんだっけ、そう、

「おい。島幸高いるか」

噂をすれば影、だったっけ?




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